クリティカルとは、①これから起きることを左右するほど重大だ、②相手や物事の悪いところを言う、という二つの顔を持つ形容詞です。英語の critical をそのままカタカナにした語で、日本語では「クリティカルな課題」「クリティカルシンキング」のように、ほとんど①の意味だけが輸入されています。
この記事では、クリティカルの意味を英英辞典の語義ごとに分解し、ギリシャ語 krinein(ふるい分ける、決める)までさかのぼる語源、よく似た crucial との線引き、辞書が示す発音とレベル、医療で言う「危篤」と批評で言う「絶賛」という正反対に見える用法までを整理します。1語で四つも五つも意味を抱えている語なので、どの意味で使われているかを見分ける手がかりを持っておくと読み間違いが減ります。
クリティカルとは何か(結論)
クリティカルとは、英語 critical のカタカナ語で、辞書には大きく四つの語義が立っています。重大な、批判的な、危篤の、批評の、の四つです。共通しているのは「分ける・見極める」という一点で、ここが分かると四つがばらばらの意味には見えなくなります。
Cambridge Dictionary は critical を四つの見出しに分けています。NOT PLEASED(不機嫌)、GIVING OPINIONS(意見を述べる)、IMPORTANT(重要)、SERIOUS(深刻)です。レベルはそれぞれ B2、C2、B2、B2 が付いています。
Oxford Learner’s Dictionaries は三つにまとめており、expressing disapproval(不賛成を表す)、important(重要)、serious/dangerous(深刻・危険)と並べています。見出しには OPAL W と OPAL S の印が付いていて、学術的な書き言葉と話し言葉の両方の頻出語リストに入っている語だと分かります。
日本語で「クリティカル」と言うとき、選ばれているのはほぼ IMPORTANT の語義です。クリティカルな問題、クリティカルなタイミング、といった使い方がそれにあたります。
クリティカルの語源はギリシャ語 krinein=「ふるい分ける、決める」
クリティカルの語源をたどると、ギリシャ語の krinein、つまり「分ける、決める」に行き着きます。四つに分かれた語義がすべてここから説明できます。
Online Etymology Dictionary によれば、形容詞 critical が英語に現れたのは1580年代で、当時の意味は「あら探しをする、欠点を見つけたがる」でした。critic に接尾辞 -al が付いた形です。
その critic のほうは、同じく1580年代に「判断を下す人、ある分野で優劣を見分ける技能を持つ人」として現れました。フランス語 critique(14世紀)から、そしてラテン語 criticus「裁く人、検閲官、査定する人」から来ています。
そのラテン語のもとがギリシャ語の kritikos「判断を下すことができる」で、さらにその動詞が krinein「分ける、決める」です。印欧祖語の語根 *krei-「ふるいにかける」にさかのぼり、そこから「識別する、区別する」の意味が出ています。
| 語義 | 英語で現れた年 | 出どころ |
|---|---|---|
| あら探しをする、欠点を見つけたがる | 1580年代 | Online Etymology Dictionary |
| 真偽や価値についての判断を含む | 1640年代 | Online Etymology Dictionary |
| 決定づけるうえで重要/不可欠な | 1600年ごろ(もとは医学) | Online Etymology Dictionary |
| 危機的な、極度の疑い・危険のなかにある | 1660年代 | Online Etymology Dictionary |
注目したいのは「決定づけるうえで重要」の語義が1600年ごろ、もともと医学の語として現れている点です。病状が良いほうへ転ぶか悪いほうへ転ぶかが分かれる山場のことで、日本語の「峠」に近い発想です。
クリティカルの発音は /ˈkrɪt.ɪ.kəl/ で第1音節に体重が乗る
critical は3音節の語で、強く読むのは最初の crit です。カタカナの「クリティカル」は四拍で平らに読みがちですが、英語では最初にはっきり山を作ります。
| 辞書 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
|---|---|---|
| Cambridge Dictionary | /ˈkrɪt.ɪ.kəl/ | /ˈkrɪt̬.ɪ.kəl/ |
| Oxford Learner’s Dictionaries | /ˈkrɪtɪkl/ | /ˈkrɪtɪkl/ |
Cambridge Dictionary のアメリカ音に付いている /t̬/ の記号に目を留めてください。これは母音にはさまれた t が、はじくような音に変わることを示す印です。日本語の「ラ」に近く聞こえるため、アメリカ英語では「クリリコー」のような響きになります。
語末の -cal は /kəl/ で、母音はあいまい母音の /ə/ です。Oxford Learner’s Dictionaries の表記は /ˈkrɪtɪkl/ とさらに切り詰めていて、母音がほとんど聞こえないことを示しています。「カル」と強く言い切らず、軽く添えるのがコツです。
語のレベルは、Cambridge Dictionary が語義ごとに分けて示しています。重要・深刻・批判的の三つが B2、批評に関する語義だけが C2 です。Oxford Learner’s Dictionaries は見出しに OPAL W と OPAL S を付けています。
クリティカルの意味①「重大な・決定的な」
日本語のクリティカルがいちばん近いのがこの語義です。Cambridge Dictionary は、物事がどう転ぶかにとって最大級に重要な、と定義しています。
例文は、大統領の支持がこのプロジェクトにとってクリティカルだ、という文です。critical to という形が示されており、結局のところ彼の貢献が決定的だと分かった、a critical decision(重大な決断)も並んでいます。
Oxford Learner’s Dictionaries の定義はもう一歩踏み込んでいて、これから先の状況がそれによって左右されるがゆえに、極めて重要な、としています。同義語として crucial が挙げられています。
| 型 | 辞書の例文 | 意味 |
|---|---|---|
| critical to something | Your decision is critical to our future. | あなたの決断が私たちの将来を左右する |
| critical for something | Timing is critical for success. | 成功にはタイミングが決定的だ |
| It is critical that … | It is critical that we keep the content of the letters secret. | 手紙の中身を秘密にしておくことが極めて重要だ |
| a critical factor/role | The kidneys play a critical role in overall health. | 腎臓は全身の健康に決定的な役割を果たす |
クリティカルの意味②「批判的な・あら探しをする」
英語で人や報告書について critical と言うときは、多くの場合こちらの意味です。Cambridge Dictionary は、誰かや何かが悪い・間違っていると言うこと、と定義しています。レベルは B2 です。
例に挙がるのは a critical report(批判的な報告書)、彼女は彼の決定について公に批判的でありたくなかった、その報告書は工場の安全基準について極めて批判的だ、という文です。highly critical of という形が定番として示されています。
Oxford Learner’s Dictionaries は見出しを expressing disapproval(不賛成を表す)とし、誰かや何かについて悪いと思うことを言う、と定義しています。批判的なコメントは無視すればいい、という例文です。
コロケーション欄には、動詞が be、become、remain、副詞が extremely、fairly、very、前置詞が of と並んでいます。つまりこの語義では critical of ~ が基本形で、of を落とすと何に対して批判的なのかが宙に浮きます。
Online Etymology Dictionary は、critic という英語には常に「非難する人、あら探しをする人、厳しく裁く人」という響きがあった、と書いています。1580年代に現れた最初の語義がまさに「あら探しをする」だったので、この響きは語の出自そのものです。
クリティカルの意味③④=医療の「危篤」と批評の「絶賛」
残る二つの語義は、日本語のクリティカルからはいちばん遠い場所にあります。ひとつは命に関わる深刻さ、もうひとつは書評や映画評の世界です。
Cambridge Dictionary の SERIOUS の語義は、病気やけがについて、死の危険があるほど極めて深刻または危険な、と定義しています。critical illness、critical injury、in a critical condition という組み合わせが並びます。
両方の運転手は時速120マイルの衝突のあと危篤状態にある、という例文には、括弧で「死ぬかもしれないほどひどく傷ついている」という補足が付いています。主にイギリス英語では人そのものを主語にして、若い男性が病院で危篤のままだ、という言い方もできます。
Oxford Learner’s Dictionaries はこの語義を serious/dangerous と見出し付けし、深刻で、先が読めず、危険をはらんだ、と定義しています。手術後の最初の24時間がいちばんクリティカルだ、これは我が国の歴史における重大な局面だ、という例文も同じ枠に入っています。
もうひとつの GIVING OPINIONS の語義は、本・演劇・映画などについての意見や判断を述べる、あるいはそれに関する、という定義です。レベルは C2 と、四つのなかで最も高く付いています。
ここで覚えておきたいのが critical acclaim という組み合わせです。Cambridge Dictionary は、彼の最後の映画は critical acclaim を得た、という例文に、括弧で「批評家に称賛された」と補足を付けています。つまり批判ではなく絶賛です。
クリティカルと crucial の違い
Oxford Learner’s Dictionaries は critical の重要の語義に、同義語として crucial をそのまま挙げています。そのうえで、使い分けについて明確な注記を置いています。
同辞典の類語解説は、essential、vital、crucial、critical、decisive、indispensable の六つを並べ、いずれも「ある状況や活動がそれに依存しているために極めて重要で、まったく欠かせない」ものを表す、としています。
そして「crucial or critical?」という囲みで、両者は同じ意味だが文脈にわずかな違いがあり得る、と書いています。critical はビジネスや科学の技術的な事柄でよく使われ、crucial は心配などの感情を引き起こしうる事柄について話すときによく使われる、という説明です。
| 語 | 発音 | 語源の中心 | 英語での初出 |
|---|---|---|---|
| critical | /ˈkrɪt.ɪ.kəl/(Cambridge) | ギリシャ語 krinein「分ける、決める」 | 1580年代 |
| crucial | /ˈkruː.ʃəl/(Cambridge) | ラテン語 crux「十字・交差」 | 1706年 |
語源はまったく別です。Online Etymology Dictionary によれば crucial は1706年に「十字形の、X字の形をした」という意味で現れ、もとは膝関節の内部で交差する靭帯を指す医学用語でした。ラテン語の crux(属格 crucis)「十字」から来ています。
「決定的な」の意味が付いたのは1830年です。フランシス・ベーコンが1620年に採用した論理学の用語 Instantias Crucis から広がったもので、発想の元は分かれ道に立つ十字形の道標、つまり「どちらかを選ばなければならない」という状況でした。
まとめると、critical は「ふるい分けて見極める」、crucial は「分かれ道で選ばされる」が出発点です。Cambridge Dictionary は crucial を B2 とし、極めて重要または必要な、と簡潔に定義して、a crucial decision/question、Her work has been crucial to the project’s success. という例文を挙げています。
クリティカルシンキングの critical はどの意味か
日本語で「クリティカルシンキング」と言うとき、多くの人が「批判的思考」という訳語から「文句をつける考え方」を連想します。しかし語源をたどると、そこにあるのは「あら探し」ではなく「判断する力」です。
Online Etymology Dictionary は、critical に「判断を下す知識、能力、あるいは眼識がある」という語義が1640年代から立っていると記しています。同じ1640年代には「真偽や価値についての判断を含む」という語義も現れています。
この二つは、1580年代の「あら探しをする」とは別立てで整理されています。つまり英語の critical には、けなす側の顔と、見極める側の顔が、早い時期から並んで存在していたということです。
根っこの krinein が「分ける、決める」であり、印欧祖語の語根 *krei- が「ふるいにかける」だったことを思い出してください。ふるいにかけて、通るものと通らないものを分ける。これが critical の中心にある動作です。
日本語の「批判的」という訳語が、語のうち片側だけを切り取ってしまっている、と理解しておくと、クリティカルシンキングという言葉への誤解が解けます。
クリティカルを使った英語の例文とよくある間違い
まず辞書に載っている型をそのまま借ります。Your decision is critical to our future.(あなたの決断が私たちの将来を左右します)、Timing is critical for success.(成功にはタイミングが決定的です)。to と for のどちらも辞書に型として立っています。
that 節の型も使えます。It is critical that we keep the content of the letters secret.(手紙の中身を秘密にしておくことが極めて重要です)。Oxford Learner’s Dictionaries の類語解説は、この that の型が essential、vital、crucial、critical に共通することを示しています。
批判の意味で使うなら of を忘れないことです。Some parents are highly critical of the school.(一部の親は学校に対して非常に批判的です)。The report is highly critical of safety standards at the factory.(その報告書は工場の安全基準について極めて批判的です)。
間違いの一つ目は、人をほめるつもりで He is very critical. と言ってしまうことです。Oxford Learner’s Dictionaries の例文 The supervisor is always very critical. が示すとおり、この形は「あら探しばかりする」と受け取られます。判断力が鋭いと言いたいなら critical faculties のように名詞を添えます。
二つ目は、critical acclaim を「批判を浴びた」と読んでしまうことです。Cambridge Dictionary は括弧で「批評家に称賛された」と明記しています。acclaim が付いた瞬間に、意味は絶賛へ振れます。
クリティカルについてよくある質問
Oxford Learner’s Dictionaries は両者を同義語としたうえで、文脈にわずかな違いがあり得ると注記しています。critical はビジネスや科学の技術的な事柄でよく使われ、crucial は心配などの感情を引き起こしうる事柄について話すときによく使われる、という説明です。語源も別で、critical はギリシャ語 krinein「分ける、決める」、crucial はラテン語 crux「十字」から来ています。
称賛です。Cambridge Dictionary は、彼の最後の映画は critical acclaim を得た、という例文に「批評家に称賛された」という補足を括弧で付けています。この critical は「批評の、批評に関する」という語義で、Cambridge Dictionary はこの語義に C2 の印を付けています。
命に関わる状態です。Cambridge Dictionary は、病気やけがについて死の危険があるほど極めて深刻または危険な、と定義しており、Both drivers are in a critical condition. という例文に「死ぬかもしれないほどひどく傷ついている」という補足を付けています。主にイギリス英語では、人そのものを主語にして remains critical と言うこともできます。
ギリシャ語 krinein「分ける、決める」までさかのぼります。Online Etymology Dictionary によれば、形容詞 critical は1580年代に「あら探しをする」の意味で現れ、critic(1580年代)に -al が付いた形です。critic はフランス語 critique、ラテン語 criticus を経て、ギリシャ語 kritikos「判断を下すことができる」、そして krinein に行き着きます。さらに印欧祖語の語根 *krei-「ふるいにかける」が背後にあります。
クリティカルのまとめ
クリティカルとは、英語 critical のカタカナ語で、辞書には「重大な」「批判的な」「危篤の」「批評の」という四つの語義が立っています。語源はギリシャ語 krinein「分ける、決める」で、印欧祖語の語根 *krei-「ふるいにかける」にさかのぼります。
日本語で使われているのはほぼ「重大な」の語義だけですが、英語で人について critical と言うと「あら探しをする」に寄ります。批判の意味で使うときは critical of ~ と of を添えるのが基本形です。
crucial との違いは、Oxford Learner’s Dictionaries が「critical は技術的な事柄、crucial は感情を伴う事柄」と注記しています。語源も krinein(ふるい分ける)と crux(十字路)で別々です。ふるいにかけて見極めるのが critical、分かれ道で選ばされるのが crucial、と押さえておけば、どちらを選ぶかで迷いません。
クリティカルの出典
critical の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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