アジャイルとは、仕事を短い単位に分け、区切りごとに見直して計画そのものを作り直していく進め方のことです。英語の agile をそのままカタカナにした語で、もとの意味は「体や頭の動きがすばやい」でした。
この記事では、アジャイルの意味を英英辞典の語義からたどり、ラテン語 agilis(すばやい)につながる語源、ウォーターフォールとの線引き、英語 agile の発音が英米で割れること、2001年のアジャイルソフトウェア開発宣言、そして働き方を指す agile working という別の語義までを整理します。IT用語として知られていますが、辞書の中では今も第一義が「身のこなしが軽い」である語です。
アジャイルとは何か(結論)
アジャイルとは、必要に応じて変更を加えることが仕事の重要な一部だと理解されたうえで、計画し実行していくやり方を指します。変更を例外扱いせず、前提に組み込んである点が芯です。
Cambridge Dictionary は agile の語義のひとつに、必要が生じたときに変更を加えることが仕事の重要な一部だと理解されている、計画と実行のやり方を表す語、という説明を立てています。Oxford Learner’s Dictionaries はさらに具体的で、仕事を一連の短い作業に分割し、定期的に区切りを設けて成果を見直し、計画を適応させていくプロジェクト管理のやり方、としています。
この二つを並べると、アジャイルの条件が三つ見えてきます。作業が短く区切られていること、区切りごとに見直しがあること、そして見直しの結果で計画が変わることです。短いスパンで進めていても、最初に立てた計画を一度も動かさないなら、辞書の語義からは外れます。
アジャイルの語源はラテン語 agilis(すばやい)
英語に agile が現れたのは1580年代です。出どころはラテン語の agilis で、「軽快な、すばやい」を意味しました。
Online Etymology Dictionary によれば、agilis はラテン語の動詞 agere にさかのぼります。agere は「動かし始める、動きを保つ」という意味の語で、さらに印欧祖語の ag(駆り立てる、引き出す、動かす)という根に行き着きます。語の芯にあるのは「動き」そのものです。
同じ根から出た英語は驚くほど多く、同辞典は act、action、agent、agitate、navigate などを同じ語族として挙げています。agile がプロジェクトの進め方を指すようになったのは近年ですが、「止まらずに動き続ける」という意味は四百年以上前から語の中に入っていたことになります。
英語 agile の発音は英米で割れる
agile の発音は、Cambridge Dictionary でイギリス英語が /ˈædʒ.aɪl/、アメリカ英語が /ˈædʒ.əl/ です。Oxford Learner’s Dictionaries もイギリス英語 /ˈædʒaɪl/、アメリカ英語 /ˈædʒl/ を示しています。
違いは後半に出ます。イギリス英語では -gile の部分を /aɪl/、つまり「アイル」と二重母音で読みますが、アメリカ英語では二重母音が落ちて曖昧母音になり、「アジャル」に近い響きになります。同じつづりでありながら、耳で聞くとかなり印象が変わります。
強勢はどちらも先頭の a- に置きます。発音記号の頭に縦線が付いていることから分かります。カタカナの「アジャイル」は最後の「イル」まで律儀に読みますが、英語では先頭を強く出し、後ろは軽く流します。アメリカ英語の話者に対して「アジャイル」と発音すると通じにくいことがあるのは、この二重母音の有無によります。
アジャイルとウォーターフォールの違い
日本語では二つの手法が対の言葉として並べられますが、英語の辞書での扱いはまったく対等ではありません。
| 言葉 | 指しているもの | 英語 |
|---|---|---|
| アジャイル | 短い作業に分け、区切りごとに見直して計画を直す進め方 | agile |
| ウォーターフォール | 上流から下流へ一方向に進める進め方。滝の比喩 | waterfall |
| アジャイル開発の手法 | 高水準の設計を頻繁な再設計に置き換えるやり方 | agile methods |
| アジャイルワーキング | 時間・場所・役割を必要に応じて変える働き方 | agile working |
| アジリティ | すばやく動ける性質そのもの | agility |
対比のいちばん分かりやすい形は、Oxford Learner’s Dictionaries が agile の項に載せている例文です。アジャイルの手法は高水準の設計を頻繁な再設計へ置き換える、という趣旨の一文で、設計をいつ確定させるかという一点に違いが集約されています。先にまとめて決めるのがウォーターフォール、進みながら決め直すのがアジャイルです。
注意したいのは、この対比が日本語の解説の中でだけ強調されがちだという点です。Cambridge Dictionary の waterfall の項を実際に引くと、川や小川の水が高いところから低いところへ落ちること、という自然現象の語義しか立っていません。開発手法としての waterfall は、一般の英英辞典には見出しとして入っていないのが実情です。
辞書に載ったのは agile のほうだけ
この非対称は、二つの語の立場の違いをそのまま映しています。agile は一般辞書に語義が立ち、waterfall は立っていません。
Cambridge Dictionary の waterfall の語義は、とくに川や小川からの水が、ときにはかなりの高さから、高い地点より低い地点へ落ちること、という説明にとどまります。同辞典のもうひとつの語義も、岩の縁を越えてずっと低い高さへ落ちる水、という自然の描写です。開発の文脈は現れません。
一方 agile には、プロジェクト管理の語義が Cambridge Dictionary にも Oxford Learner’s Dictionaries にも独立して立っています。辞書に語義が立つのは、一般の書き手が特別な説明なしに使うようになった語だけです。英語圏では agile が日常語彙の側へ渡り切ったのに対し、waterfall のほうは業界内の呼び名にとどまっている、と読み取れます。英語で書くときは、waterfall とだけ書かず the waterfall model のように語を補うほうが安全です。
アジャイルソフトウェア開発宣言(2001年)の4つの価値
アジャイルという語がこの意味で広まった起点は、2001年に公開されたアジャイルソフトウェア開発宣言です。17人の著者が名を連ねています。
宣言が掲げる価値は4つです。プロセスやツールよりも個人と対話を、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、契約交渉よりも顧客との協調を、計画に従うことよりも変化への対応を、という並びになっています。いずれも「AよりもB」という形で書かれています。
辞書の語義との対応がはっきり見えるのは4つ目です。計画に従うことより変化への対応を上に置く、という言い方は、Cambridge Dictionary が語義に書いている「変更を加えることが仕事の重要な一部」という説明とそのまま重なります。宣言の言葉が二十年ほどかけて辞書の語義になった、という順序で眺めると理解しやすくなります。
agile working は「働き方」を指す別の語義
Oxford Learner’s Dictionaries には、開発手法とは別にもうひとつの語義が立っています。働き方そのものを指す用法です。
その語義は、働く時間と場所、そして人が担う役割のすべてを必要に応じて変えられる働き方で、正確な手段よりも達成すべき目標に焦点を置くもの、という説明です。同辞典には、アジャイルワーキングとは柔軟で生産性の高い環境をつくることに尽きる、という趣旨の例文が添えられています。
この語義では、ソフトウェアもプロジェクトも関係ありません。オフィス勤務か在宅か、担当が固定か流動かといった話が対象になります。英文の人事資料で agile という語を見たときは、開発手法の話ではなく働き方の話である可能性を先に疑うほうが読み違えを避けられます。
agile は形容詞。名詞は agility になる
Cambridge Dictionary と Oxford Learner’s Dictionaries は、agile を adjective、つまり形容詞として立てています。名詞ではありません。
日本語では「アジャイルを導入する」「アジャイルでやる」のように名詞のように扱いますが、英語では後ろに名詞が要ります。agile methods、agile development、agile working のように、何が agile なのかを添える形です。動詞の目的語として agile だけを置くことはできません。
性質そのものを名詞で言いたいときは agility を使います。Cambridge Dictionary のビジネス欄には、急速な変化に立ち向かうには俊敏さと柔軟さ、そして戦略を素早く実行する力が要る、という趣旨の例文が載っています。日本語の「アジャイル」が名詞として使われている場面の多くは、英語では agility か agile+名詞のどちらかに置き換わります。
体も頭も「アジャイル」と言える
辞書で第一に来るのは今も身体の語義です。Cambridge Dictionary の一番目の語義は、体を素早く簡単に動かせる、という説明です。
同辞典には、サルはとても身のこなしの軽い木登り役だ、という趣旨の例文や、この種の作業には器用に動く指が必要だ、という例文が載っています。Oxford Learner’s Dictionaries も、強くて動きの素早い運動選手、という例を第一義に置いています。スポーツや動物の描写で使われるのが本来の姿です。
二番目に来るのが頭の語義で、素早く明晰に考えられる、という説明です。Cambridge Dictionary には、80歳の男性としては驚くほど頭の回転が速い、という趣旨の例文があります。an agile mind、an agile brain という組み合わせが定型で、Oxford Learner’s Dictionaries も同じ形を挙げています。身体から頭へ、そして仕事の進め方へと、同じ「すばやさ」が三段階に広がった構図です。
アジャイルを使った英語の例文
身体の意味の基本形です。Monkeys are very agile climbers.(サルはとても身のこなしの軽い木登りをする)。Cambridge Dictionary の例文で、後ろに名詞が続く形容詞の型がそのまま見えます。
頭の意味なら、For a man of 80, he has a remarkably agile mind.(80歳の男性としては、彼は驚くほど頭の回転が速い)が同辞典に載っています。an agile mind というかたまりで覚えると使いやすくなります。
開発手法の意味では、Agile methods replace high-level design with frequent redesign.(アジャイルの手法は、高水準の設計を頻繁な再設計に置き換える)が Oxford Learner’s Dictionaries の例です。働き方の意味なら、Agile working is all about creating a flexible and productive environment.(アジャイルワーキングとは、柔軟で生産的な環境をつくることに尽きる)となります。組織を主語にするなら、Most agile corporations have flexible management systems.(俊敏な企業の多くは柔軟な管理の仕組みを持っている)という形が Cambridge Dictionary のビジネス欄にあります。
アジャイルのよくある間違い
一つ目は、短い期間で回すことだけをアジャイルと呼ぶことです。辞書の語義には見直しと計画の修正が含まれており、区切りが短くても計画が変わらないなら語義から外れます。
二つ目は、名詞として使ってしまうことです。agile は形容詞なので、英語では後ろに名詞が要ります。性質そのものを指したいときは agility に置き換えます。
三つ目は、waterfall を辞書に載っている対義語だと思い込むことです。Cambridge Dictionary の waterfall には自然現象の語義しか立っていないため、英語では the waterfall model のように語を補う必要があります。四つ目は発音で、アメリカ英語では -gile が二重母音にならず /ˈædʒ.əl/ となる点を知らないと、聞き取りでつまずきます。
アジャイルについてよくある質問
設計をいつ確定させるかが分かれ目です。Oxford Learner’s Dictionaries は agile の項で、高水準の設計を頻繁な再設計に置き換えるやり方だと説明しています。先にまとめて決めて一方向に進むのがウォーターフォール、進みながら見直して計画を直すのがアジャイルです。
英米で割れます。Cambridge Dictionary はイギリス英語に /ˈædʒ.aɪl/、アメリカ英語に /ˈædʒ.əl/ を示しています。イギリス英語では後半を「アイル」と二重母音で読み、アメリカ英語では曖昧母音になって「アジャル」に近くなります。強勢はどちらも先頭です。
使えません。Cambridge Dictionary も Oxford Learner’s Dictionaries も agile を形容詞として立てています。英語では agile methods や agile working のように後ろに名詞を置き、性質そのものを言いたいときは名詞の agility を使います。
語そのものは1580年代から英語にあります。Online Etymology Dictionary はラテン語 agilis(軽快な、すばやい)からの借用と記録しています。仕事の進め方を指す用法が広まった起点は、2001年に17人の著者が公開したアジャイルソフトウェア開発宣言です。
アジャイルのまとめ
アジャイルとは、仕事を短い単位に分け、区切りごとに見直して計画そのものを作り直していく進め方のことです。語源はラテン語の agilis(軽快な、すばやい)で、さらに agere(動かし始める)、印欧祖語の ag(動かす)にさかのぼります。英語に入ったのは1580年代で、第一義は今も身体の動きの速さです。
英語では形容詞なので、後ろに名詞を置いて使います。性質そのものは agility という名詞になります。プロジェクト管理の語義は Cambridge Dictionary にも Oxford Learner’s Dictionaries にも立っていますが、対語とされる waterfall には一般辞書に開発手法の語義がありません。発音は英米で割れ、アメリカ英語では後半の二重母音が落ちます。起点は2001年のアジャイルソフトウェア開発宣言で、計画に従うことより変化への対応を上に置く、という4つ目の価値が辞書の語義とそのまま重なります。
アジャイルの出典
agile の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典、および一次資料で確認しました。

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