ブラッシュアップとは、日本語では「すでにあるものをさらに良い形へ磨き上げること」を指します。ただし英語の brush up は「一度覚えて忘れかけている知識や技能を復習して取り戻すこと」で、意味がずれています。
この記事では、英語の brush up が本当は何を指すのかを英英辞典で確かめ、日本語のブラッシュアップとの食い違いがどこにあるのかを整理します。あわせて、語源が「ブラシで埃を払う」であること、比喩の意味が生まれた年、そして日本語のブラッシュアップを英語で言うときの正しい語も見ていきます。
ブラッシュアップとは何か(結論)
日本語のブラッシュアップは、企画書やデザインや原稿など、すでに形になっているものに手を入れて完成度を上げることを指します。対象は多くの場合、自分以外の誰かにも見せる制作物です。
英語の brush up はそうではありません。英英辞典は「一度学んだが部分的に忘れてしまっているものについて、知識を高めること」と説明しています。対象は制作物ではなく、自分の頭の中にある知識や技能です。
つまり同じ言葉でありながら、日本語は「モノを磨く」、英語は「自分の腕を取り戻す」を指しています。方向がまるで違うため、そのまま英語に持ち込むと通じません。
英語の brush up は「忘れかけた知識を取り戻す」
辞書が挙げている例文は、どれも語学や技能の話です。パリへ行く前にフランス語を復習しておこう、セビリアへ行く前にスペイン語をやり直さなければ、といった形で示されています。
オックスフォードの説明は「とくにしばらく使っていなかった技能を、手早く高めること」です。ポイントは二つあります。かつて身につけていたこと、そしてしばらく使っていなかったこと。この二つがそろって初めて brush up が使えます。
初めて学ぶことには使えません。「これからフランス語をブラッシュアップします」を I’ll brush up my French. と書くと、英語では「昔やったフランス語を復習する」と読まれます。ゼロから始めるなら learn や study です。
辞書はこの句動詞を、語学に関する語のグループに分類しています。それだけ言語学習の文脈で使われることが多い表現だということです。
ブラッシュアップは和製英語なのか
語そのものは英語に実在します。その意味では和製英語ではありません。ただし日本語での使い方は英語の語義から外れているため、意味の面ではずれた外来語だと言えます。
和製英語には二種類あります。英語に存在しない語を日本で組み立てたもの(ナイターなど)と、英語に存在する語を別の意味で使っているものです。ブラッシュアップは後者にあたります。形は借りてきたが、中身が入れ替わっている型です。
この型はやっかいです。英語話者に brush up と言えば、単語は通じます。通じるからこそ、意図と違う意味で受け取られたまま会話が進んでしまいます。存在しない語なら「それは何?」と聞き返してもらえますが、その機会がありません。
ブラッシュアップの語源は「ブラシで埃を払う」
brush は14世紀後半の英語に「埃を掃く道具」として現れます。古フランス語の broce を経て、俗ラテン語の bruscia(新芽の束)にさかのぼるとされています。
新芽の束が語源だというのは、それを束ねて埃を掃く道具にしていたからです。ブラシは最初から工業製品だったわけではなく、枝葉の束から始まった道具でした。ゲルマン語系の「下生え」を意味する語との関係も指摘されています。
動詞の brush は15世紀後半に「衣類をブラシで清める、こする」の意味で現れます。「かすめるように触れて通り過ぎる」という今よく使う意味が加わるのは1640年代です。もとは掃除の動詞でした。
比喩の意味が生まれたのは1788年
句としての brush up は1600年ごろから使われています。当時の意味は文字どおり「ブラシをかけてきれいにする」でした。
「知識をよみがえらせる、呼び戻す」という比喩の意味が記録されるのは1788年からです。文字どおりの掃除から、頭の中の話へ移るまでに200年近くかかったことになります。
比喩の筋道は分かりやすいものです。しまい込んでいた靴や上着には埃が積もります。捨てる必要はなく、ブラシをかければまた使える。忘れかけた語学の知識も同じで、失われたのではなく埃をかぶっているだけだ、という見立てです。
この語源を知ると、なぜ brush up が「初めて学ぶこと」に使えないのかが分かります。ブラシをかけるには、まずその服を持っていなければなりません。持っていないものには、埃も積もりません。
日本語のブラッシュアップを英語で言うなら
制作物に手を入れて完成度を上げる、という日本語のブラッシュアップには、別の動詞を使います。場面ごとに使える語を並べます。
| 英語 | 指しているもの | 使う場面 |
|---|---|---|
| refine | 小さな変更を重ねて良くする | 企画・手法・仕組み |
| improve | 全般的に良くする | 最も広く使える |
| revise | 見直して書き直す | 文章・計画 |
| polish | 磨いて仕上げる | 文章・プレゼン |
| rework | 作り直す | 設計・原稿 |
最も近いのは refine です。辞書はこの語に「アイデア、手法、仕組みなどを、小さな変更を加えることでより良くする」という語義を立てています。エンジニアが何か月もかけてソフトウェアを refine した、という例文が示されており、日本語のブラッシュアップとほぼ重なります。
refine にはもう一つ「不純物を取り除いて純度を上げる」という意味もあります。原油を精製する、というときの語です。余計なものを削ぎ落として本体を際立たせる、という感覚が、企画書を練り直す作業とよく合います。
brush up の発音と形
brush の発音は、イギリス英語もアメリカ英語も /brʌʃ/ です。英米で差がありません。一音節で、母音は「ア」に近い短い音です。
日本語の「ブラッシュ」は促音を挟んで四拍になりますが、英語は一音節です。br をひとかたまりで出し、母音を短く切り、最後の sh でそっと閉じます。「ブ・ラッ・シュ」と割らないのがこつです。
up は弱く添えます。brush と up を切り離さず、ひと続きに「ブラッシャップ」のように流すと自然になります。句動詞は二語で書きますが、音の上ではひとかたまりです。
brush up on と brush up の使い分け
この句動詞には二つの形があります。brush up on something と、brush something up です。辞書は両方を載せており、どちらも正しい形です。
brush up on my French と brush up my French は、どちらも使えます。on があるほうがやや多く見られますが、意味の差はありません。辞書も括弧に入れて brush up (on) something と示しています。
目的語が代名詞のときだけ注意が必要です。on を使う形なら brush up on it、on を使わない形なら brush it up と、代名詞を真ん中に置きます。brush up it とは言いません。句動詞の一般的な決まりに従います。
brush up を使った英語の例文
語学の例です。I need to brush up on my English before the conference.(会議の前に英語をやり直しておく必要がある)。before ~ と組んで、期限のある準備として語られることが多い表現です。
技能の例です。She brushed up her interviewing skills over the weekend.(彼女は週末に面接の技術を磨き直した)。かつて身につけていた技能に、もう一度手をかける場面です。
on を使わない例です。He is brushing up his cooking after years away from the kitchen.(何年も台所から離れていた彼が、料理の腕を取り戻しつつある)。長く使っていなかった、という前提が入っている点は共通しています。
brush off・brush aside など brush の仲間
brush は句動詞をよく作る動詞です。どれも「ブラシで払う」動作が下敷きになっています。
| 句動詞 | 意味 | 下敷きの動作 |
|---|---|---|
| brush up (on) | 知識や技能を取り戻す | 埃を払って使えるようにする |
| brush off | 相手や意見を退ける | 肩の埃を払い落とす |
| brush aside | 問題を脇へどける | 手で払いのける |
| brush against | かすめるように触れる | 軽く触れて通る |
brush off が「はねつける、相手にしない」の意味で使われるようになるのは1941年からと記録されています。上着に付いた糸くずを払うように、相手の言い分を軽く払いのける。冷たさが伝わる表現です。
同じ「払う」でも、上へ払えば取り戻し、横や外へ払えば退ける。方向を示す副詞ひとつで意味が反転するのが、英語の句動詞の面白いところです。
ブラッシュアップのよくある間違い
一つ目は、他人の制作物について使うことです。英語の brush up の対象は、自分の知識や技能です。同僚の企画書について brush up と言っても、意図した意味にはなりません。
二つ目は、初めて学ぶことに使うことです。brush up は、一度身につけたものが前提です。新しく学ぶなら learn、詳しく学ぶなら study を使います。
三つ目は、成果物の完成度を上げる意味で使うことです。企画書や原稿に手を入れるなら refine、revise、polish です。日本語のブラッシュアップをそのまま英語にしないよう気をつけます。
ブラッシュアップについてよくある質問
語そのものは英語に実在するので、存在しない語を組み立てた型の和製英語ではありません。ただし日本語での使い方は英語の語義から外れています。英語の brush up は「忘れかけた知識や技能を復習して取り戻すこと」で、制作物を磨き上げることではありません。
refine the proposal が最も近い言い方です。辞書は refine に「アイデアや手法を、小さな変更を加えることでより良くする」という語義を立てています。書き直しの色を出すなら revise、仕上げの色を出すなら polish も使えます。
どちらも正しい形です。辞書は brush up (on) something と括弧付きで示し、brush something up の形も併記しています。意味の差はありません。ただし目的語が代名詞のときは brush it up の語順になり、brush up it とは言いません。
しまい込んで埃をかぶった衣類にブラシをかけると、また使える状態に戻ります。忘れかけた知識も失われたのではなく埃をかぶっているだけだ、という見立てです。この比喩の用法は1788年から記録されています。
ブラッシュアップのまとめ
ブラッシュアップは、日本語では制作物を磨き上げることを指しますが、英語の brush up は「一度学んで忘れかけている知識や技能を復習して取り戻すこと」です。語は英語に実在するものの、意味がずれたまま定着した外来語にあたります。
brush は14世紀後半に「埃を掃く道具」として英語に入り、句としての brush up は1600年ごろに「ブラシをかけてきれいにする」の意味で使われ始めました。比喩の意味が記録されるのは1788年からです。日本語のブラッシュアップを英語で言うなら refine が最も近く、場面によって revise や polish も使えます。brush up は自分の腕を取り戻す言葉だ、と押さえておけば取り違えません。
ブラッシュアップの出典
brush up の定義・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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