「ディベートしよう」と言われたとき、身構える人は多いはずです。言い合いになるのでは、角が立つのでは、と。ところが本来のディベートは、けんかとは正反対の設計を持った、きわめて礼儀正しい競技です。
この記事では、ディベートとは何かをはっきりさせ、議論・討論・ディスカッションとの違い、英語 debate の意味と発音、そして実際の進み方までを順に見ていきます。
ディベートとは何か
ディベートとは、ひとつの論題について賛成側と反対側に分かれ、決められた手順と時間の中で主張を戦わせ、第三者が判定する競技的な議論のことです。大事なのは、勝ち負けを判定する審判がいること、そして立場が自分で選べるとは限らないことの二点です。
教育の場で行われるディベートでは、賛成か反対かをくじや指定で割り当てます。自分が本心では反対でも、賛成側として立つことがある。これは意地悪ではなく、狙いがあってそうしています。自分の意見と切り離して論を組み立てる訓練になるからです。
議論・討論・ディスカッションとの違い
よく混ざるので、並べて整理します。ディスカッションは、参加者が協力して答えを探す話し合いです。立場は固定されず、途中で意見を変えてかまいませんし、勝敗もつきません。会議のほとんどはこちらです。
ディベートは違います。立場が最初から固定され、時間が計られ、審判が判定します。相手を説得するのが目的ではなく、聞いている第三者を納得させるのが目的です。ここが一番の分かれ目で、だから相手に感情をぶつけても意味がありません。
日本語の「討論」は、この両方を含む広い言葉として使われます。テレビの討論番組は、形式としてはディスカッションに近いことが多いのですが、ディベート的な対立の演出が入ります。言葉が広いぶん、指しているものを毎回確かめたほうが安全です。
英語の debate の意味
英語の debate も、基本の意味は日本語と重なります。ある問題について、異なる立場から公に議論すること。政治の文脈でよく使われ、議会での審議や、選挙前の候補者討論会を指します。
動詞としても使われます。They debated the issue for hours.(彼らはその問題を何時間も議論した)。この場合は競技という含みは薄れ、単に本格的に論じ合う、という意味になります。
もうひとつ、日本語からは出てこない用法があります。自分の中で迷う、という意味です。I debated whether to go. なら「行くかどうか迷った」。自分ひとりの中で賛成と反対を戦わせている、という発想です。この用法は会話でよく出てくるので、覚えておくと読解が楽になります。
発音と読み方
debate の発音は、アメリカ英語で /dɪˈbeɪt/、イギリス英語でもほぼ同じです。カタカナで近づけるなら「ディベイト」。日本語表記の「ディベート」より、後半は伸ばす音ではなく、エとイをすべらせる二重母音になります。
強く読むのは後ろの bate です。頭の de は弱く、軽く添えるだけ。ここを強く読むと別の語に聞こえやすくなるので、後ろを高く、が合言葉です。
ディベートの進み方
形式はいくつもありますが、骨格は共通しています。まず肯定側が立論を述べ、次に否定側が立論を述べます。立論とは、自分の側の主張とその根拠をひとまとまりで示すことです。
次に質疑があります。相手の立論の弱いところを、質問の形で確かめる時間です。ここで自分の主張を演説してはいけません。あくまで質問で、相手に答えさせます。
そして反駁。相手の主張のどこが成り立たないかを示します。最後に最終弁論で、なぜ自分の側が優っているかをまとめます。時間は各段階で厳密に区切られ、超えれば止められます。この時間制限があるから、話が発散しません。
論題の立て方
ディベートの論題は、賛成と反対がきれいに割れる形で作られます。「日本は◯◯を導入すべきである」という形が典型です。すべきである、という形にすることで、賛成側と反対側の役割がはっきりします。
逆に「◯◯についてどう思うか」は論題になりません。立場が割れないからです。良い論題かどうかは、反対側にも十分な材料があるかで決まります。片方が明らかに正しい論題は、競技として成立しません。
ディベートで身につくもの
第一に、根拠を添える癖がつきます。ディベートでは「私はそう思う」は通りません。なぜそう言えるのかを、データや事例で支える必要があります。この癖は仕事の説明でもそのまま生きてきます。
第二に、反対側の見え方が分かるようになります。割り当てで反対側に立たされると、自分が普段見ていなかった論点を探さざるをえません。これが視野を広げます。
第三に、時間内にまとめる力がつきます。持ち時間が決まっているので、長く話すことに価値はありません。短く、要点から。この感覚は、会議でも面接でも役に立ちます。
ディベートの型:肯定側が背負うもの
ディベートには、勝ち負けを決めるための約束事があります。その中心が、立証の責任をどちらが負うかという考え方です。「◯◯を導入すべきである」という論題では、変えようと言っている肯定側が、変える理由を示す責任を負います。
つまり肯定側は、今のままでは何が困るのか、導入すれば何が良くなるのか、この二つを自分から示さなければなりません。否定側は、その説明が足りていないと指摘するだけでも、形の上では成立します。ここが有利不利のもとになるので、進行役は時間配分でつり合いを取ります。
もう一つの型が、反論の順番です。相手の主張を崩すときは、番号を付けて上から順に当たります。一点目はこう、二点目はこう、と並べる。聞いている側が追えるように話す、というのが競技としての作法です。
日本でのディベート教育
日本の学校でディベートが取り入れられ始めたのは、比較的最近のことです。国語や英語の授業、総合的な学習の時間などで扱われ、全国規模の大会も開かれています。英語で行う英語ディベートも広がりました。
英語ディベートが語学の練習として優れているのは、話す内容が先に決まっているからです。何を言うか考えながら英語を組み立てるのは負担が大きいのですが、立論を用意しておけば、発音と言い回しに集中できます。準備した文をそのまま読むのではなく、要点だけ手元に置いて話す形にすると、ちょうどよい負荷になります。
例文で確かめる
日本語での使い方です。「授業でディベートをやった」「ディベート大会に出る」「この論題はディベート向きだ」。いずれも競技としての議論を指しています。
英語ではこうなります。We had a debate about the new rule.(新しい規則について議論した)。The candidates will debate tomorrow.(候補者たちは明日討論する)。There is much debate over the cause.(原因については議論が多い)。
自分の中で迷う用法も見ておきます。I debated calling her.(彼女に電話しようか迷った)。I’m still debating what to do.(まだどうするか決めかねている)。相手がいない debate です。
よくある間違い
一つ目は、ディベートを口げんかだと思ってしまうことです。声を大きくしても、相手を言い負かしても、審判の評価は上がりません。評価されるのは論の組み立てと根拠の質です。
二つ目は、質疑で演説してしまうことです。質疑は相手から情報を引き出す時間で、自分の主張を述べる時間ではありません。ここを混同すると、貴重な持ち時間を捨てることになります。
三つ目は、英語にするときの前置詞です。「◯◯についての議論」は debate about または debate on、debate over が自然で、debate of とはあまり言いません。
まとめ
ディベートとは、論題について賛否に分かれ、決められた時間と手順で主張を戦わせ、第三者が判定する競技です。協力して答えを探すディスカッションとは、目的も設計も違います。
英語の debate は、公の場での議論という意味に加えて、自分ひとりで迷うという用法を持ちます。発音は後ろの bate を強く、ディベイトと二重母音で。ここまで押さえれば、日本語でも英語でも困りません。
出典
英語 debate の意味・発音・用法は以下の英英辞典で確認しました。

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