スペックとは、英語の specification(仕様・詳細な記述)を短くした spec をカタカナにした語で、「どう作られるべきか・どう作られたかを細かく書き下したもの」を指します。英英辞典は spec を specification の informal(くだけた言い方)の短縮形として立てていて、独立した別の意味を与えてはいません。
この記事では、スペックの意味を Cambridge Dictionary と Oxford Learner’s Dictionaries の語義から確かめ、ラテン語 specere(見る)にさかのぼる語源、spec が短縮元を三度乗り換えた歴史、specification との使い分け、辞書が示す発音と数え方、そして日本語の「ハイスペック」「スペックが高い」が英語の辞書にどう載っているかまでを整理します。
スペックとは何か(結論)
スペックとは、ものが「どういう作りになっているか」を細かく書き並べた記述のことです。英語では spec と書き、これは specification という長い語を縮めたくだけた言い方です。
Cambridge Dictionary は spec を名詞 informal として立て、定義を「specification(=何かがどう行われ、作られるべきか、あるいはどう行われ作られたかの詳細な記述)のくだけた言い方」としています。つまり spec の項そのものには定義文が無く、specification の項へ送る形になっています。
同辞典が挙げる例文は「その記事は最も売れている車10台の specs を比べている」です。複数形の specs で、製品の仕様一覧を指しています。
Oxford Learner’s Dictionaries の spec には定義文が置かれていて、「何かについての詳細な記述。とくに、それを作るために必要な設計と材料」です。例文は「私たちはその機械を自分たちの spec どおりに製造してほしい」で、こちらも see also で specification を参照させています。
Cambridge Academic Content Dictionary(American Dictionary)はさらに短く、spec を「specification の短縮形(short form)」とだけ定義しています。例文は「今週、あなたの新しい浴室の specs を作成します」です。
Cambridge Business English Dictionary も同じ立場で、「specification の informal な略語(informal abbreviation)」と定義しています。例文は「契約書にサインする前に、必ず車の spec を見てください」です。
四つの辞書項目が、そろって spec を「specification の短縮形」として扱っています。日本語のカタカナ語「スペック」が受け取っているのも、この短縮形のほうです。英語で正式な文書に書くときは specification のほうを使い、spec は会話や社内のやりとりで使うくだけた形、という役割分担になっています。
Cambridge Dictionary は specification の項に C1 レベルを付けています。上級の語として扱われているということです。Oxford Learner’s Dictionaries は同じ語に OPAL W(Oxford Phrasal Academic Lexicon の Written のリスト)の印を付けていて、書き言葉のアカデミック語彙として位置づけられています。
スペックの語源はラテン語 specere(見る)
Oxford Learner’s Dictionaries の specification の語源欄によれば、この語は16世紀後期に中世ラテン語 specificatio(n-) から入り、その元は後期ラテン語 specificare、さらにラテン語 species「見た目、形、美しさ」、そして specere「見る」にさかのぼります。スペックの芯にあるのは「見る」という動作です。
Online Etymology Dictionary の記述はもう少し細かく段を刻んでいます。specification は1610年代に「ある性質を付与する行為」の意味で現れ、中世ラテン語 specificationem(主格 specificatio)から来ていて、これは後期ラテン語 specificare「とりわけ言及する」の過去分詞幹から作られた行為名詞です。specificare の元はラテン語 specificus です。
その specificus を、同辞典は形容詞 specific の項で分解しています。ラテン語 species「種類、たぐい」に -ficus「作る、なす」が付いた形で、-ficus は facere「作る」の結合形です。英語の形容詞 specific は1630年代に「特別な性質を持つ」の意味でフランス語 spécifique と後期ラテン語 specificus から入りました。
| 段階 | 形 | 意味 |
|---|---|---|
| 印欧祖語の語根 | *spek- | 観察する |
| ラテン語の動詞 | specere | 見る、目を向ける |
| ラテン語の名詞 | species | 見た目、形、美しさ/種類、たぐい |
| 後期ラテン語の形容詞 | specificus | ある種類やたぐいを構成する |
| 後期ラテン語の動詞 | specificare | とりわけ言及する |
| 中世ラテン語の名詞 | specificatio(n-) | ― |
| 英語(1610年代) | specification | ある性質を付与する行為 |
| 英語(1833年) | specification | 細かく記述された技術的事項・項目 |
| 英語(1956年までに) | spec | 詳細な記述、標準 |
印欧祖語の語根 *spek-「観察する」は、Online Etymology Dictionary が spectacle と speculation の項でどちらも specere の出どころとして挙げているものです。spectacle(見世物)も speculation(思索・投機)も、そして spec も、おおもとは同じ「見る」に行き着きます。
今のスペックに近い意味がいつ付いたかも記録されています。Online Etymology Dictionary によれば、specification が「細かく記述された技術的事項、記事項目、項目」の意味を得たのは1833年からで、もともとは特許法の用語でした。出願人が装置の構造と用途を記述したもの、それが specification でした。
この出発点を知ると、スペックという語がなぜ工業製品の話で出てくるのかが見えてきます。特許の明細書として始まった語が、製造と建設の現場に広がり、そこから略語の spec が生まれた、という順序です。
スペックの英語 spec は短縮元を三度乗り換えている
Online Etymology Dictionary によれば、spec という短縮形は1794年から使われていますが、当時の短縮元は specification ではありませんでした。spec は歴史のなかで、何を縮めた形なのかを三度変えています。
最初は1794年、アメリカ英語で speculation の短縮形として現れました。speculation は Online Etymology Dictionary によれば14世紀後期に「知的な観照、考察、見るという行為」の意味で入った語で、1774年から「市場価値の上下から利益を得ようとする売買」の意味が記録されています。1794年の spec はこの投機の意味の短縮形です。
二つ目は1926年、サーカスの業界用語で spectacle の短縮形として使われました。spectacle は同辞典によれば14世紀半ばに「公共の娯楽、とくに用意され配置された催し」の意味で古フランス語 spectacle から入った語です。
三つ目が今の意味です。同辞典は「1956年までに『詳細な記述または標準』として、とくに製造と建設の分野で、specification の短縮形」と記しています。specification の項にも「この意味での短縮形 spec は1956年までに確認される」と同じ年が書かれています。
| 年 | 短縮元 | そのときの意味 | 使われた場所 |
|---|---|---|---|
| 1794年 | speculation | 投機 | アメリカ英語 |
| 1926年 | spectacle | 見世物、催し | サーカスの業界用語 |
| 1956年までに | specification | 詳細な記述、標準 | 製造と建設 |
Oxford Learner’s Dictionaries の語源欄も、二つの spec を書き分けています。名詞の spec は「1950年代。specification の略」。いっぽう慣用句の on spec は「18世紀後期。speculation の略」。同じつづりの spec が、辞書のなかで二つの別々の出どころを持って並んでいます。
二つの辞書が示す年が重なっているのが見どころです。Online Etymology Dictionary の「1956年までに」と Oxford Learner’s Dictionaries の「1950年代」は同じ時期を指しています。そして on spec の側も、Online Etymology Dictionary の「1794年」と Oxford Learner’s Dictionaries の「18世紀後期」が一致します。
Online Etymology Dictionary は spec の項の末尾に「Related: Specs.」とも記しています。複数形の specs も、この語族の一員として登録されているということです。
日本語のカタカナ語「スペック」が入ってきたのは、三つ目の specification 由来の意味です。1794年の投機の spec と1926年のサーカスの spec は、カタカナ語には引き継がれていません。
スペックと specification の違い
意味の違いはありません。違うのは語の格式です。辞書は spec に informal(くだけた言い方)の札を付け、specification には付けていません。
Cambridge Dictionary は spec を「noun informal」と表示し、定義文を「informal for specification」としています。逆に specification の項では「(informal spec)」と括弧に入れて併記しています。どちらの項から引いても、二つは同じものを指すと分かる作りです。
Cambridge Business English Dictionary はさらに踏み込んで、句の形でも両方を並べています。to specification(s) という形に「also informal to spec(s)」と添え、正式な形とくだけた形の対応を示しています。
Oxford Learner’s Dictionaries の spec には informal の札は付いていませんが、定義の末尾に「see also specification」が置かれ、specification の項へ送られます。いっぽう慣用句 on spec のほうには、はっきり (informal) が付いています。
| 項目 | スペック(spec) | specification |
|---|---|---|
| Cambridge の札 | informal | 札なし(C1) |
| Cambridge の定義 | informal for specification | 何かがどう行われ、作られるべきかの詳細な記述 |
| Oxford の定義 | 何かについての詳細な記述。とくに設計と材料 | 何かがどう設計・製造されているか、あるいはされるべきかの詳細な記述 |
| Oxford の印 | ― | OPAL W(書き言葉のアカデミック語彙) |
| Cambridge の発音(英) | /spek/ | /ˌspes.ɪ.fɪˈkeɪ.ʃən/ |
| Cambridge の数え方 | [C]/Business では [C or U] | [C or U] |
| Cambridge の語群 | Elaborating, specifying and simplifying | Elaborating, specifying and simplifying/Plans and arrangements |
Cambridge Dictionary の関連語彙の枠を見ると、spec と specification は同じ語群に並んで入っています。「Elaborating, specifying and simplifying(詳しく述べる・特定する・単純化する)」という語群で、その一覧のなかに specification と spec が両方とも載っています。辞書の分類のうえでも、二つは同じ引き出しに入っているということです。
Cambridge Dictionary は specification にもう一つ別の語群も付けています。「Plans and arrangements(計画と手配)」です。spec の項には付いていない語群で、正式な形のほうが計画文書としての顔を強く持っていることがうかがえます。
使い分けの目安はこうなります。契約書・設計図・求人票のような文書に書くなら specification、会議や口頭のやりとりなら spec。Cambridge Business English Dictionary の例文「契約書にサインする前に、必ず車の spec を見てください」は口頭の助言の形で、「その健康口座は、法律が定める specifications を満たす保険証券と組み合わせて使う必要がある」は制度の説明の形になっています。
「スペックが高い」「ハイスペック」は英語の辞書にどう載っているか
高い・低いという水準の言い方は、英語の辞書にも載っています。Cambridge Business English Dictionary は「high/basic spec」を見出しの形として立てていて、ここは日本語の「ハイスペック」と地続きです。
同辞典の例文は「最も basic な spec の PC が最も安い」です。spec を高低で語り、それが値段に直結する、という使い方がそのまま載っています。
正式な形 specification のほうにも同じ言い方があります。Cambridge Dictionary の例文は「その車は high specification で作られている」で、わざわざ「(= a high standard)(=高い水準)」という注釈が添えられています。
Oxford Learner’s Dictionaries の例文も二つあります。「そのオフィスは high specification で家具が備えられていた」と「そのヨットは the highest specifications で作られている」です。単数でも複数でも、高低の形容詞と組みます。
| 辞書に載っている形 | 辞書の例 | 何にかかっているか |
|---|---|---|
| high/basic spec | 最も basic な spec の PC が最も安い | PC |
| built to a high specification | その車は high specification で作られている(=高い水準) | 車 |
| furnished to a high specification | そのオフィスは high specification で家具が備えられていた | オフィス |
| built to the highest specifications | そのヨットは the highest specifications で作られている | ヨット |
| the same basic specifications | その試作機は the same basic specifications を持っている | 試作機 |
ここで確かめておきたいのは、辞書に載っていない側です。Cambridge Dictionary が spec に立てている語義は、名詞(specification の短縮形)・動詞(仕様どおりに作る)・形容詞(分譲住宅の)の三つで、Oxford Learner’s Dictionaries の語義は名詞一つと慣用句 on spec です。このなかに、人の学歴・収入・容姿といった条件を指す語義はありません。
辞書が挙げている例文の主語や目的語を並べても同じことが言えます。車、PC、機械、金型、モニターの解像度、浴室、航空機、ヨット、オフィス、試作機。いずれもものです。人に spec を当てた例文は、渡された辞書の記述のなかには出てきません。
したがって「ハイスペックな人」という言い方については、英語の spec の語義としては辞書に載っていない、というところまでが辞書から言えることです。日本語のカタカナ語の側で広がった使い方で、英語の辞書はその意味を立てていません。
スペックの英語 spec の発音は /spek/
spec は1音節の語で、/spek/ と読みます。Cambridge Dictionary も Oxford Learner’s Dictionaries も、イギリス英語とアメリカ英語で同じ /spek/ を示していて、書き分けをしていません。
カタカナの「スペック」は「ス・ペ・ッ・ク」で四拍を並べますが、英語は1音節です。/s/ と /p/ が続けて出て、母音は /e/ の一つだけ、最後に /k/ で閉じます。
| 語と辞書 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
|---|---|---|
| spec|Cambridge(名詞・informal) | /spek/ | /spek/ |
| spec|Cambridge(動詞) | /spek/ | /spek/ |
| spec|Cambridge(形容詞・US) | /spek/ | /spek/ |
| spec|Cambridge(American Dictionary) | ― | /spek/ |
| spec|Cambridge(Business English) | /spek/ | /spek/ |
| spec|Oxford Learner’s | /spek/ | /spek/ |
| specification|Cambridge(一般) | /ˌspes.ɪ.fɪˈkeɪ.ʃən/ | /ˌspes.ə.fəˈkeɪ.ʃən/ |
| specification|Cambridge(American Dictionary) | ― | /ˌspes·ə·fɪˈkeɪ·ʃən/ |
| specification|Cambridge(Business English) | /ˌspesɪfɪˈkeɪʃən/ | ― |
| specification|Oxford Learner’s | /ˌspesɪfɪˈkeɪʃn/ | /ˌspesɪfɪˈkeɪʃn/ |
正式な形 specification のほうは5音節で、強勢が二つあります。Cambridge Dictionary の表記 /ˌspes.ɪ.fɪˈkeɪ.ʃən/ を見ると、先頭の spes に第二強勢の記号 /ˌ/ が、四つ目の keɪ に第一強勢の記号 /ˈ/ が付いています。体重を乗せるのは四つ目です。
イギリス英語とアメリカ英語で差が出るのは、真ん中の二つの母音です。Cambridge Dictionary はイギリス英語を /ˌspes.ɪ.fɪˈkeɪ.ʃən/ と ɪ で書き、アメリカ英語を /ˌspes.ə.fəˈkeɪ.ʃən/ と ə(あいまい母音)で書いています。アメリカ英語のほうが、真ん中を力の抜けた音で処理する表記になっているということです。
Oxford Learner’s Dictionaries は specification について英米とも /ˌspesɪfɪˈkeɪʃn/ を載せていて、こちらは書き分けをしていません。同じ語でも、辞書によって英米差の扱いが違います。
短い spec の側は、どの辞書のどの品詞でも /spek/ で一致しています。名詞・動詞・形容詞の三つの項に別々に発音が載っていて、三つとも同じ音です。読み方で迷う要素が無い、という点では覚えやすい語です。
スペックの英語 spec は可算か不可算か
辞書は spec を基本的に可算名詞として扱っています。ただし Cambridge Business English Dictionary だけは [C or U](可算または不可算)としていて、実務の文脈では両方あると示しています。
Cambridge Dictionary の一般の項は spec を [C] としています。Oxford Learner’s Dictionaries も [countable] です。
複数形が優勢だと注記している項もあります。Cambridge Academic Content Dictionary(American Dictionary)は「[C usually pl](可算・通常は複数)」と書き、Oxford Learner’s Dictionaries は「(North American English also specs [plural])」と添えています。北米では specs の形で出てくる、ということです。
Cambridge Business English Dictionary の表示は「[C or U](US also specs [plural])」です。可算・不可算の両方を認め、そのうえでアメリカでは specs の複数形もある、という三段構えになっています。
| 辞書の項 | 数え方の表示 | 複数形の注記 |
|---|---|---|
| spec|Cambridge(一般) | [C] | ― |
| spec|Cambridge(American Dictionary) | [C usually pl] | 通常は複数 |
| spec|Cambridge(Business English) | [C or U] | US also specs [plural] |
| spec|Oxford Learner’s | [countable] | North American English also specs [plural] |
| specification|Cambridge(一般) | [C or U] | ― |
| specification|Cambridge(American Dictionary) | [C usually pl] | 通常は複数 |
| specification|Cambridge(Business English) | [C, usually plural]/[U] | 通常は複数 |
| specification|Oxford Learner’s | [countable, uncountable] | ― |
不可算で使うときに何を指すのかも、Cambridge Business English Dictionary が書き分けています。specification の [U] の語義は「何かがどう行われるべきかについて、詳細な情報を与える行為」です。例文は「経営陣は、各営業担当者が受け持つべき営業テリトリーの大きさについて、明確な specification をしなかった」で、書かれた文書ではなく、指示を出すという行為のほうを指しています。
Cambridge Dictionary の例文も、可算と複数の両方が並んでいます。「すべての製品は顧客の specifications どおりに正確に作られている」は複数形、「その新しい軍用機のために specification が作成された」は単数です。
実務で迷ったら複数形にしておくほうが辞書の表示に沿います。四つの辞書項目のうち三つが「通常は複数」または「複数形もある」と注記しているからです。とくに製品の仕様一覧を指すときは specs が自然な形になります。
スペックは名詞のほかに動詞と形容詞にもなる
Cambridge Dictionary は spec に三つの品詞の項を立てています。名詞、動詞、そして名詞の前でだけ使うアメリカ英語の形容詞です。カタカナ語のスペックが受け取ったのは、このうち名詞だけです。
動詞の spec は他動詞 [T] で、定義は「ある特定の specification(=何かがどう行われ、作られるべきかの詳細な記述)にしたがって、何かを計画する、行う、あるいは作る」です。日本語にすると「仕様どおりに仕立てる」に近い動作です。
活用がやや変わっています。同辞典は現在分詞を speccing、過去形を specced、過去分詞を specced としています。c が二つ重なる形です。
例文は二つあります。「プレイヤーが自分のキャラクターを本物の殺戮マシンへと spec するのを見たことがある」と「あなたの TwinTop を197馬力のエンジンで spec することもできる」です。ゲームの構成を組むことと、車をオプション指定で仕立てることが、同じ動詞で表されています。
形容詞の spec は、アメリカ英語で名詞の前にだけ置いて使います。定義は「特定の顧客のためではなく、買ってくれる人なら誰にでも売るために、個人や会社が設計し建てた家などを表す」です。
| 品詞 | 辞書の表示 | 定義の要点 | 辞書の例 |
|---|---|---|---|
| 名詞 | [C] informal | specification の短縮形 | 車10台の specs を比べる |
| 動詞 | [T]/speccing・specced・specced | ある仕様にしたがって計画・実行・製作する | 197馬力のエンジンで spec する |
| 形容詞 | [before noun] US | 買い手を特定せずに建てて売る(家など) | spec home/spec house |
形容詞の spec の例文は不動産の話ばかりです。「高額な spec homes を建てるのは、うまくいけば見返りのある賭けだが、市場が引き締まると悲惨にもなりうる」「彼の会社はスコッツデールに380万ドル近くの spec house を1軒売りに出している」「建設業者は spec house を次から次へと建て続けた」「開発業者は短期の利益のために spec homes を建てていて、長期の影響に気づいていない」「その地域では5棟以上の spec buildings が建設中だ」。
この形容詞の spec が何の短縮形なのかは、辞書の例文のひとつが明かしています。Cambridge Dictionary の「彼は湖畔の2軒を『spec homes』として、つまり売れるだろうという speculation(見込み・投機)にもとづいて建てた」です。1794年の投機の spec が、今も不動産の形容詞として生きていることになります。
Cambridge Dictionary が三つの項に付けている関連語彙の枠も、それぞれ違います。名詞は「Elaborating, specifying and simplifying(詳しく述べる・特定する・単純化する)」、動詞は「Inventing, designing and innovation(発明・設計・革新)」、形容詞は「Building: construction work & workers(建築:建設工事と作業者)」。同じつづりの語が、辞書のなかで三つの別の棚に置かれています。
スペックを使った英語の表現とよくある間違い
辞書が見出しの形として立てているものをそのまま借りるのが確実です。to spec(s)、high/basic spec、spec sheet の三つを押さえておけば、多くの場面で役に立ちます。
to specification(s) は「仕様どおりに」です。Cambridge Business English Dictionary はこの形に「also informal to spec(s)」とくだけた形を併記し、「製品が to specification で作られているとは、設計した人が作られるべきと言ったとおりに正確に作られていることだ」と説明しています。例文は「そのプロジェクトが期限内に to specification で完了すれば、請負業者は妥当な利益を得ることになる」です。
同辞典は make/build sth to (sb’s) specification(s) という形も立てています。例文は「すべての製品は顧客の specifications どおりに正確に作られている」です。Oxford Learner’s Dictionaries も前置詞の欄に according to the/your specifications と to the/your specifications を並べています。
meet/conform to specifications は「仕様を満たす・仕様に適合する」です。Oxford Learner’s Dictionaries の追加例文にも「その航空機は FAA が定めた厳格な specifications を満たさなければならない」という形が出てきます。
spec sheet は仕様書のことです。Oxford Collocations Dictionary は spec について「Spec is used before these nouns: sheet」と記していて、spec が前に付く名詞として sheet だけを挙げています。Cambridge Dictionary の見出し一覧にも spec builder と spec sheet が並んでいます。
| 形 | 意味 | どの辞書の見出しか |
|---|---|---|
| to specification(s) / to spec(s) | 仕様どおりに | Cambridge Business English |
| make/build sth to (sb’s) specification(s) | 〜の仕様どおりに作る | Cambridge Business English |
| meet/conform to specifications | 仕様を満たす・適合する | Cambridge Business English |
| high/basic spec | 高い/基本的な仕様 | Cambridge Business English |
| product / performance / design specifications | 製品/性能/設計の仕様 | Cambridge Business English |
| job specification | 職務の仕様書 | Cambridge Dictionary |
| spec sheet | 仕様書 | Oxford Collocations/Cambridge の見出し一覧 |
| draw up / develop / write a specification | 仕様を作成する | Oxford Collocations |
| on spec | 当てが外れるかもしれないまま、やってみる | Cambridge/Oxford(idiom) |
一つ目の間違いは、on spec を「仕様どおりに」の意味だと思い込むことです。この慣用句は spec とは別の語の短縮形から来ていて、Cambridge Dictionary の定義は「望むものが得られるかどうか確かではないまま、当たるかどうかに賭けてみること」です。「仕様どおりに」を言いたいなら to spec のほうで、前置詞が on か to かで意味がまるごと入れ替わります。
二つ目は数え方です。前の章で見たとおり、四つの辞書項目のうち三つが「通常は複数」または「複数形もある」と注記しています。製品の仕様一覧を指すなら specs か specifications の形にしておくのが辞書の表示に沿います。
三つ目は動詞の活用です。spec を動詞で使うとき、Cambridge Dictionary が示す形は speccing・specced・specced で、c が二つ重なります。つづりを間違えやすいところです。
四つ目は、正式な文書でも spec のまま書いてしまうことです。Cambridge Dictionary は spec に informal の札を付け、specification のほうには付けていません。契約書・仕様書・求人票のような文書では specification を選ぶほうが、辞書の表示に沿った選択になります。
スペックについてよくある質問
意味は同じで、格式が違います。Cambridge Dictionary は spec を「noun informal」と表示し、定義を「informal for specification」としています。逆に specification の項には「(informal spec)」と括弧付きで spec が併記されています。Cambridge Academic Content Dictionary は spec を「short form of specification」、Cambridge Business English Dictionary は「informal abbreviation for specification」と定義しています。Oxford Learner’s Dictionaries の spec には定義文があり、「何かについての詳細な記述。とくに、それを作るために必要な設計と材料」で、末尾に see also specification が置かれています。Cambridge Dictionary は specification に C1 レベルを付け、Oxford Learner’s Dictionaries は OPAL W の印を付けています。
ラテン語 specere「見る」です。Oxford Learner’s Dictionaries の specification の語源欄は「16世紀後期。中世ラテン語 specificatio(n-) から。後期ラテン語 specificare から。ラテン語 species『見た目、形、美しさ』から、これは specere『見る』から」と記しています。Online Etymology Dictionary は specification を1610年代に「ある性質を付与する行為」の意味で入った語とし、中世ラテン語 specificationem、後期ラテン語 specificare「とりわけ言及する」、ラテン語 specificus という道筋を示しています。specificus はさらにラテン語 species「種類、たぐい」+ -ficus「作る、なす」に分かれ、-ficus は facere「作る」の結合形です。同辞典は spectacle と speculation の項で、specere が印欧祖語の語根 *spek-「観察する」にさかのぼると記しています。
つづりは同じですが、短縮元が違う別の語です。Oxford Learner’s Dictionaries は語源欄を書き分けていて、名詞の spec は「1950年代。specification の略」、慣用句の on spec は「18世紀後期。speculation の略」としています。意味も別で、Cambridge Dictionary の定義は「望むものが得られるかどうか確かではないまま、当たるかどうかに賭けてみること」です。例文は「私たちはチケットが取れるだろうと期待して、on spec で空港に現れただけだった」。Oxford Learner’s Dictionaries の説明は「on spec で何かをするとは、前もって段取りを整えずに、運が良ければと期待しながら何かを達成しようとすることだ」で、例文は「多くの若者が on spec で仕事に応募する(=求人広告に応じるのではなく、職があるかもしれないと期待して)」です。Cambridge Business English Dictionary の例文は「建設業者は買い手が見つかる前に on spec で住宅を建てた」です。
ものの水準を言う形としては載っています。Cambridge Business English Dictionary は「high/basic spec」を見出しの形として立て、例文に「最も basic な spec の PC が最も安い」を挙げています。正式な形のほうでも、Cambridge Dictionary が「その車は high specification で作られている(=高い水準)」、Oxford Learner’s Dictionaries が「そのオフィスは high specification で家具が備えられていた」「そのヨットは the highest specifications で作られている」を挙げています。いっぽう、人の学歴・収入・容姿といった条件を指す語義は、辞書の spec の項には載っていません。Cambridge Dictionary が立てている語義は名詞・動詞・形容詞の三つで、Oxford Learner’s Dictionaries は名詞一つと慣用句 on spec だけです。辞書の例文に出てくる対象も、車・PC・機械・金型・浴室・航空機・ヨット・オフィス・試作機とものばかりです。
スペックのまとめ
スペックとは、英語 specification(何かがどう行われ、作られるべきかの詳細な記述)を縮めた spec のカタカナ語です。英英辞典は spec に独立した意味を与えず、specification の informal な短縮形として扱っています。
語源はラテン語 specere「見る」で、species「見た目、形、美しさ/種類、たぐい」、specificus、specificare を経て、1610年代の英語 specification に至ります。今のスペックに近い「細かく記述された技術的事項」の意味が付いたのは1833年で、もともとは特許法の用語でした。略語の spec がこの意味を担うようになったのは1956年までのことです。
英語で使うときは、発音が1音節の /spek/ であること、辞書の三つの項が「通常は複数」または「複数形もある」と注記していること、正式な文書では specification を選ぶこと、この三つを押さえておけば形を外しません。「仕様どおりに」は to spec で、on spec は別の語から来た別の慣用句です。
そして spec は名詞だけの語ではありません。Cambridge Dictionary は他動詞の spec(speccing・specced・specced)と、アメリカ英語の形容詞 spec(spec home/spec house)も立てています。カタカナ語のスペックが受け取ったのは名詞の一つだけで、英語の側にはまだ二つの顔が残っています。
スペックの出典
spec と specification の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

コメント