ネゴシエーションとは、合意にたどり着くために相手と話し合う過程、そしてその話し合いそのものを指す語です。英語の negotiation をそのままカタカナにした語で、日本語では「交渉」「ネゴ」と訳されます。
この記事では、ネゴシエーションの意味を英英辞典の語義からたどり、ラテン語 negotium(字義どおりには「暇がないこと」)までさかのぼる語源、動詞 negotiate との線引き、辞書が示す発音と数え方、前置詞の型、そして金融分野でまったく別の意味を持つ用法までを整理します。ビジネス英語の頻出語でありながら、型を外すと通じにくくなる語なので、辞書が示している形をそろえておきます。
ネゴシエーションとは何か(結論)
ネゴシエーションとは、合意に達するために誰かと何かを話し合う過程、あるいはその話し合いそのものです。日本語の「交渉」とほぼ重なりますが、英語では複数形で使うのが基本、という点だけ感覚が違います。
Cambridge Dictionary は negotiation を、合意に達するために誰かと何かを議論する過程、またはその議論そのもの、と定義しています。レベルは C1 です。
例文は、一連の困難なネゴシエーションのあとに合意に達した、という文です。ここでも negotiations と複数形になっています。
Oxford Learner’s Dictionaries は、合意に達しようとしている人々のあいだの、あらたまった話し合い、と定義しています。品詞欄は [countable, usually plural, uncountable]、つまり可算でふつうは複数形、かつ不可算でもある、という表示です。
Cambridge Business English Dictionary の定義も同じ方向で、合意に達しようとしている人々のあいだの正式な議論、としています。こちらの品詞欄も [C, usually plural or U] です。三つの辞書がそろって「ふつうは複数形」と書いている、という点を最初に押さえておきます。
ネゴシエーションの語源はラテン語 negotium=「暇がないこと」
ネゴシエーションの語源は、話し合いでも合意でもありません。行き着くのはラテン語の negotium で、字義どおりには「暇がないこと」です。
Online Etymology Dictionary によれば、negotiation が英語に現れたのは15世紀初頭で、当時の綴りは negotiacioun、意味は「人々と取引すること、商いをすること」でした。古フランス語の negociacion「商売、取引」から、そして直接にはラテン語 negotiationem「商売、取引」から入っています。
そのもとの動詞が negotiari で、「商売を営む、商いをする、銀行家として振る舞う」という意味でした。さらにさかのぼると名詞 negotium に行き着きます。
この negotium が面白いところです。意味は「商売、職業、仕事、公私の用件」、そして「困難、骨折り、苦労、労働」でもありました。組み立ては neg-「〜でない」+otium「安らぎ、余暇」で、字義どおりには「余暇がないこと」になります。
| 段階 | 形 | 意味 |
|---|---|---|
| 語根 | neg-(印欧祖語 *ne-)+otium | 「〜でない」+「安らぎ、余暇」 |
| ラテン語 | negotium | 商売、職業、用件/困難、骨折り=字義は「余暇がないこと」 |
| ラテン語 | negotiari | 商売を営む、銀行家として振る舞う |
| 15世紀初頭 | negotiacioun | 人々と取引すること、商いをすること |
| 1570年代 | negotiation | 取引や合意の条件について互いに議論し取り決めること |
同辞典は、「商いをすること」から「何についてであれ条件を掛け合うこと」へ意味が広がったのは、すでにラテン語の段階だったと記しています。そして今の「取引や合意の条件について互いに議論し取り決めること」という語義が立つのは1570年代です。
仕事とは余暇がない状態のことだ、という古代ローマ人の見方が、そのまま現代のビジネス語のいちばん底に残っている、というわけです。
ネゴシエーションの発音は第3音節に山がある
negotiation は5音節の長い語で、いちばん強く読むのは後ろから2番目の -a- です。カタカナの「ネゴシエーション」は平らに読みがちですが、英語では山と谷がはっきり分かれます。
| 辞書 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
|---|---|---|
| Cambridge Dictionary | /nəˌɡəʊ.ʃiˈeɪ.ʃən/ | /nəˌɡoʊ.ʃiˈeɪ.ʃən/ |
| Cambridge 米語辞典 | ― | /nɪˌɡoʊ·ʃiˈeɪ·ʃən/ |
| Cambridge ビジネス英語 | /nɪˌɡəʊʃiˈeɪʃən/ | ― |
| Oxford Learner’s Dictionaries | /nɪˌɡəʊʃiˈeɪʃn/ | /nɪˌɡəʊʃiˈeɪʃn/ |
表記を見ると、アクセント記号が二つ付いています。前のほうにある小さな記号は第2アクセント、つまり弱めの山で、-go- の位置です。大きな記号が主アクセントで、-a- の位置にあります。
出だしの ne- はあいまい母音で、辞書によって /nə/ と /nɪ/ に分かれます。どちらにせよ「ネ」とはっきり言う音ではありません。最後の -tion は /ʃən/、Oxford Learner’s Dictionaries の表記では /ʃn/ とさらに切り詰められています。
日本語話者がつまずきやすいのは -tia- の部分です。/ʃi/ と読むので、綴りの t は「ティ」ではなく「シ」の音になります。ネゴシエーションというカタカナがここだけは正しく写している、と考えると覚えやすいでしょう。
ネゴシエーションの英語 negotiation は複数形が基本
日本語では「交渉」を単数で言いますが、英語の negotiation は複数形で使うのが基本です。これが日本語話者のいちばん外しやすい点です。
Cambridge Dictionary は品詞欄を [C or U] としたうえで、例文のほとんどを複数形にしています。一連の困難なネゴシエーションのあとに合意に達した、賃金のネゴシエーションは微妙な段階に達している、といった具合です。
Oxford Learner’s Dictionaries は [countable, usually plural, uncountable] と、はっきり「ふつうは複数形」と書いています。Cambridge Business English Dictionary も [C, usually plural or U] です。
Cambridge の米語辞典はさらに念を押していて、Negotiations remained at a standstill.(ネゴシエーションは行き詰まったままだった)という例文に [C usually pl] という印を付けています。三つの辞書が別々の言い方で同じことを伝えている、ということです。
では単数で使う場面が無いかというと、そうではありません。Cambridge Dictionary には Negotiation for the pay increase is likely to take several weeks.(賃上げのネゴシエーションには数週間かかりそうだ)という単数の例文も載っています。行為そのものを抽象的に指すときは単数、具体的な一連のやりとりを指すときは複数、と使い分けられています。
ネゴシエーションで使う前置詞の型
この語は前置詞との組み合わせがそのまま決まり文句になっています。辞書に載っている型を先に覚えてしまうのが、いちばん早い近道です。
| 型 | 意味 | 辞書の例文 |
|---|---|---|
| under negotiation | 交渉中である | The issue is still under negotiation. |
| in negotiation with somebody | 〜と交渉して | A contract is prepared in negotiation with our clients. |
| negotiation with somebody | 〜との交渉 | They were conducting secret negotiations with Spain. |
| negotiation between A and B | AとBのあいだの交渉 | The rent is a matter for negotiation between the landlord and the tenant. |
| negotiation for something | 〜を求める交渉 | Negotiation for the pay increase is likely to take several weeks. |
| open to negotiation | 交渉の余地がある | The price is generally open to negotiation. |
Cambridge Business English Dictionary は open to negotiation に定義まで付けています。合意に達しようとしている人々によって議論され変更されうる状態、という意味です。契約の条件はまだ交渉の余地がある、という例文が添えられています。
under negotiation にも定義があり、合意に達しようとしている人々によって議論されている過程にある、とされています。改訂された契約は数か月にわたって交渉中だ、という例文です。どちらも無冠詞で使う点に注意してください。
動詞との組み合わせも辞書に並んでいます。Oxford Learner’s Dictionaries は enter into/open/begin negotiations、そして continue/resume/conclude negotiations を挙げています。始める・続ける・再開する・締めくくる、という一連の流れがそのまま型になっています。
ビジネスのネゴシエーションで使う決まり文句
Cambridge Business English Dictionary は、実務でそのまま使える形をいくつも挙げています。まず begin/enter into/be in negotiations(with someone)という三つ組です。
例文は、取締役会は共通の土台を見つけるために交渉に入る意思が確かにある、と彼は述べた、という文です。enter into negotiations で「交渉のテーブルに着く」を表します。
a new round of negotiations という言い方も載っています。その会社は主要な従業員層との新たな交渉のラウンドを始めようとしている、という例文です。Oxford Learner’s Dictionaries にも They begin another round of negotiations today. という同じ形が出てきます。
名詞を前に付ける形も定番です。budget negotiations、contract negotiations、peace negotiations、trade negotiations。Oxford Learner’s Dictionaries は peace/trade/contract negotiations をまとめて挙げています。
覚えておくと便利なのが room for negotiation です。Cambridge Business English Dictionary の例文には There was little room for negotiation.(交渉の余地はほとんど無かった)が載っています。日本語の「余地」がそのまま room で表せます。
金融のネゴシエーションは「小切手を現金に換えること」
同じ negotiation でも、金融と銀行の分野ではまったく別の意味になります。話し合いとは何の関係もない語義が、辞書にきちんと立っています。
Cambridge Business English Dictionary は [U] の語義として、FINANCE と BANKING の印を付け、小切手をお金に換える過程、と定義しています。
例文は、negotiation による支払いは、手形または小切手がその振出国の現地通貨建てである場合にのみ使える、という文です。a negotiation fee という組み合わせも挙がっています。
同辞典はもうひとつ FINANCE の語義を立てており、小切手や為替手形などの法律上の所有者を変える過程、としています。negotiation による小切手の移転とは、所持人から別の人への移転のことだ、という例文です。
この語義が生まれた理由は語源を見ると腑に落ちます。もとのラテン語 negotiari には「銀行家として振る舞う」という意味が含まれていました。商いの語だったものが、一方では交渉へ、もう一方では金融へ枝分かれしたわけです。
ネゴシエーションと動詞 negotiate の違い
negotiation は名詞、negotiate は動詞です。ただし発音のアクセントの位置と、動詞にしかない語義があるので、置き換えるだけでは足りません。
| 語 | 品詞 | 発音(Cambridge) | レベル |
|---|---|---|---|
| negotiation | 名詞 [C or U] | /nəˌɡəʊ.ʃiˈeɪ.ʃən/ | C1 |
| negotiate | 動詞 [I or T] | /nəˈɡəʊ.ʃi.eɪt/ | C1 |
アクセントの位置が動きます。名詞は後ろのほうの -a- が主アクセントですが、動詞は前のほうの -go- が主アクセントです。同じ語族でも山の場所が違うので、続けて言うときに引っかかりやすいところです。
Cambridge Dictionary は動詞 negotiate の DISCUSS の語義を C1 とし、合意に達するために誰かとあらたまった話し合いをすること、と定義しています。negotiate with、negotiate for、negotiate something with someone という三つの型が示されています。
動詞にしかない語義もあります。MANAGE TO DO の見出しで、難しい道をなんとか進んでいく、と定義されており、そのぬかるんだ丘の斜面を進む唯一の方法は徒歩だ、という例文が載っています。もうひとつ、難しいものに対処する、という語義もあります。
この語義の出どころが変わっています。Online Etymology Dictionary によれば、「うまく扱う、なんとかこなす」という意味が付いたのは1862年で、最初は「馬に乗って生け垣や柵などの障害を跳び越える」ことを指していました。狐狩りの現場で生まれた言い方だ、と説明されています。
ネゴシエーションを使った英語の例文とよくある間違い
まず辞書の型をそのまま借ります。The exact details of the agreement are still under negotiation.(合意の正確な詳細はまだ交渉中です)、The terms of the contract are still open to negotiation.(契約の条件にはまだ交渉の余地があります)。どちらも無冠詞で使います。
交渉の相手を示すなら with です。They were conducting secret negotiations with Spain.(彼らはスペインと秘密の交渉を行っていた)。当事者が二者なら between も使えます。
間違いの一つ目は、単数形で押し通してしまうことです。三つの辞書がそろって「ふつうは複数形」と書いています。具体的なやりとりを指すときは negotiations にします。
二つ目は、名詞と動詞のアクセントを同じ場所で読んでしまうことです。名詞は /nəˌɡəʊ.ʃiˈeɪ.ʃən/ で後ろに山、動詞は /nəˈɡəʊ.ʃi.eɪt/ で前に山です。
三つ目は、契約書や貿易書類の negotiation を「交渉」と訳してしまうことです。金融の文脈では小切手を現金に換える過程、あるいは法律上の所有者を移す過程を指します。a negotiation fee という語が出てきたら、話し合いの費用ではありません。
ネゴシエーションについてよくある質問
ふつうは複数形です。Oxford Learner’s Dictionaries は品詞欄を [countable, usually plural, uncountable]、Cambridge Business English Dictionary は [C, usually plural or U] としています。Cambridge の米語辞典も Negotiations remained at a standstill. という例文に [C usually pl] の印を付けています。ただし行為そのものを抽象的に指すときは単数も使われ、Negotiation for the pay increase is likely to take several weeks. という例文が載っています。
ラテン語 negotium までさかのぼります。Online Etymology Dictionary によれば、negotiation は15世紀初頭に「人々と取引すること、商いをすること」の意味で英語に現れ、ラテン語 negotiationem、動詞 negotiari「商売を営む、銀行家として振る舞う」を経て negotium に行き着きます。negotium は neg-「〜でない」+otium「安らぎ、余暇」で、字義どおりには「余暇がないこと」です。今の「条件を議論し取り決めること」という語義は1570年代からです。
Cambridge Business English Dictionary はそれぞれに定義を付けています。under negotiation は「合意に達しようとしている人々によって議論されている過程にある」、つまり今まさに交渉中という状態です。open to negotiation は「合意に達しようとしている人々によって議論され変更されうる」、つまり交渉の余地があるという状態です。前者は進行中、後者は可能性を表します。
小切手を現金に換える過程、または小切手や為替手形の法律上の所有者を変える過程です。Cambridge Business English Dictionary は [U] の語義として FINANCE と BANKING の印を付けて両方を立てており、a negotiation fee という組み合わせや、negotiation による小切手の移転は所持人から別の人への移転である、という例文を載せています。語源のラテン語 negotiari に「銀行家として振る舞う」という意味があったことの名残です。
ネゴシエーションのまとめ
ネゴシエーションとは、合意に達するために誰かと何かを話し合う過程、そしてその話し合いそのものです。語源はラテン語 negotium で、neg-(〜でない)+otium(安らぎ、余暇)=「余暇がないこと」が字義どおりの意味でした。英語に入ったのは15世紀初頭、今の語義が立つのは1570年代です。
英語で使うときの要点は三つあります。ふつうは複数形 negotiations で使うこと。under negotiation、open to negotiation、in negotiation with という無冠詞の型を覚えること。そして動詞 negotiate とはアクセントの位置が違うことです。
最後にもうひとつ、金融の文脈では「小切手を現金に換える過程」というまったく別の語義があります。ここだけは「交渉」と訳すと意味が通らないので、契約書や貿易書類を読むときは語義を切り替えてください。
ネゴシエーションの出典
negotiation の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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