ペルソナとは、その人が外に向けて見せている人格のことです。ラテン語の persona(仮面)に由来し、本当の性格とは違う顔、という含みを持っています。
この記事では、ペルソナの意味をローマ劇の仮面までさかのぼってたどり、マーケティングで使う「顧客像」との関係、ターゲットとの線引き、英語 persona の発音と複数形までを整理します。日本語のペルソナと英語の persona では重心がずれているため、そこを取り違えないための材料を先に置きます。
ペルソナとは何か(結論)
ペルソナとは、他人に向けて見せている人格の面を指す語です。辞書には「その人が持っているように見える性格で、本当の性格や私的な性格とは異なることが多いもの」と説明されています。
英語の persona は数えられる名詞です。オックスフォードはこの語に formal(かたい語)の印を付けています。日常会話でぽんと出る語ではなく、書き言葉や評論で使われることが多い語です。
日本語のペルソナは、これに加えてマーケティングの用語としても定着しました。想定する顧客を一人の人物として細かく描いたもの、という使い方です。同じ語ですが、英語圏で先に思い浮かぶ意味とは重心が違います。ここが日本語話者のつまずきどころになります。
ペルソナの語源は「仮面」
persona はラテン語の persona にさかのぼります。もとの意味は「仮面」で、ローマ時代の劇で俳優がかぶった作り物の顔のことでした。
この仮面は木や粘土で作られ、頭全体を覆うものだったと語源辞典は説明しています。舞台の上で誰が誰を演じているのかを、客席から一目で分かるようにする道具でした。そこから「劇中の役」「装った人格」という意味へ広がっていきます。
英語の person も同じ語です。古フランス語の persone を経て、1200年ごろに「一人の人間」の意味で英語に入りました。ペルソナとパーソンは、たどれば同じラテン語の一語から枝分かれしています。人を数える語の根が「仮面」だった、というのがこの語の面白いところです。
ペルソナの語源には二つの説がある
ラテン語 persona がどこから来たのかは、実は決着していません。語源辞典は二つの説を並べたうえで、どちらにも留保を付けています。
一つは、ラテン語の personare(音が通り抜ける)と関係があるという説です。仮面には口の穴が開いていて、声がそこを通って響いた、という理解です。ただしこの説には母音の長さが合わないという難点があり、そこが引っかかると指摘されています。
もう一つは、エトルリア語の phersu(仮面)から借りたという説です。エトルリアはローマより前にイタリア半島にあった文明で、演劇の道具立てとともに語も入ってきた、という筋書きになります。語源辞典の中には、この語の項目そのものを立てていないものもあります。つまり、はっきり分かっていないというのが現在の答えです。
ペルソナが「社会的な人格」を指すようになったのは1917年
今の意味 ── 外に向けた人格、社会的な人格 ── で persona が記録されるのは1917年です。ユング心理学の用語として使われたのが始まりでした。
それより早く、1909年に詩人のエズラ・パウンドが「作者の声を代表する文学上の人物」という意味で使った例があります。語り手と作者は別物だ、という考え方をひとことで言うために持ち出された用法です。
心理学のペルソナは、社会に向けて身につけた人格を指します。職場での自分、家庭での自分、といった顔の使い分けです。仮面をかぶること自体は悪いことではなく、社会で生きるために必要な働きだと位置づけられます。
押さえておきたいのは時間の幅です。「仮面」という原義は2000年近く前のものですが、「本当の自分とは違う外向けの顔」という今の使い方は100年ほどの歴史しかありません。語としては古く、語義としては新しいのがペルソナです。
ペルソナとターゲット・キャラクターの違い
近い場面で使われる語が並びます。それぞれ何を指しているのかを分けます。
| 言葉 | 指しているもの | 英語 |
|---|---|---|
| ペルソナ | 外に見せている人格。マーケティングでは一人に絞った顧客像 | persona |
| ターゲット | 狙う相手の層。年齢や性別などの幅で示す | target |
| キャラクター | その人が本来持っている性質 | character |
| セグメント | 共通の条件で切り分けた集団 | segment |
英語の target は、もともと射撃練習で狙う的を指す語です。辞書の第一義も「射撃練習で撃たれる物」となっています。的である以上、そこには広さがあります。ターゲットが層を表すのは、この語感の延長です。
対してペルソナは一人の像です。層を絞り込んでいった先に立つ、具体的な一人を指します。「ペルソナは30〜40代の女性」という言い方が座りが悪いのは、この差のためです。それは層の話であって、一人の話になっていません。
ペルソナの発音とアクセント
persona の発音は、イギリス英語で /pəˈsəʊ.nə/、アメリカ英語で /pɚˈsoʊ.nə/ です。強く読むのは二音節目の so で、ここだけがはっきり鳴ります。
日本語の「ペルソナ」は先頭を高く読みがちですが、英語では per を弱く曖昧に流します。per-SO-na と三つに割って、真ん中だけを立てるのが正しい形です。先頭を強く読むと、別の語に聞こえてしまいます。
先頭の音は英米で差が出ます。イギリス英語では曖昧母音の /pə/、アメリカ英語では r の響きを伴う /pɚ/ です。二音節目の母音も、イギリスが /əʊ/、アメリカが /oʊ/ と分かれます。どちらでも通じますが、両方の形を知っておくと聞き取りが楽になります。
ペルソナの複数形は personae と personas
複数形は二つあります。ラテン語式の personae と、英語式の personas です。どちらも英英辞典に載っている正規の形です。
personae の発音は、イギリス英語で /pəˈsəʊ.niː/、アメリカ英語で /pɚˈsoʊ.niː/ と示されます。辞書によってはイギリス発音を /pəˈsəʊnaɪ/ と載せていて、末尾を「ナイ」と読む形も認められています。ラテン語由来の語にはよくある揺れです。
日常の文章では personas のほうがよく見ます。personae はかたい文章や、後で見る dramatis personae のような決まった言い方に残っています。迷ったら personas で問題ありません。
マーケティングで使うペルソナ
マーケティングのペルソナは、想定する顧客を一人の人物として具体的に描いたものです。年齢・職業・一日の過ごし方・困っていることまで決めて、一人分の像に落とし込みます。
狙いは、作り手の頭の中にいる相手をそろえることです。「30代女性」とだけ書くと、読む人によって思い浮かべる相手が違ってしまいます。名前と生活のある一人に絞れば、どの言葉を選ぶか、どの機能を先に出すかの判断がぶれにくくなります。
この使い方は英英辞典の定義には出てきません。英語圏でも user persona、buyer persona という形では使われますが、単独の persona はまず「外向けの人格」に取られます。英語で顧客像の話をするときは、修飾語を付けたほうが確実に伝わります。
persona を使った英語の例文
世間向けの顔を言う例です。Her public persona is calm, but she is anxious in private.(彼女は人前では落ち着いて見えるが、私生活では不安を抱えている)。public persona はこの語で最も多い組み合わせです。
舞台上の人格を言う例です。He built a stage persona around silence.(彼は沈黙を軸に舞台上の人格を作り上げた)。stage persona と screen persona は、辞書が共起語として挙げている形です。
複数形の例です。The singer moves between several personas on the album.(その歌手はアルバムの中でいくつもの人格を行き来する)。ここは personae に置き換えても通じます。
persona と組み合わせて使う語
persona は決まった語と組んで使われることが多い名詞です。よく出る形を並べます。
| 組み合わせ | 意味 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| public persona | 世間に見せている顔 | 最も多い形 |
| stage persona | 舞台上の人格 | 音楽・演劇 |
| screen persona | 映像作品での人格 | 映画・テレビ |
| dramatis personae | 登場人物一覧 | 台本の冒頭 |
| persona non grata | 好ましからざる人物 | 外交・比喩 |
dramatis personae は、劇の台本の冒頭に置かれる登場人物一覧のことです。ラテン語の形のまま英語に入り、今も同じ用途で使われています。ペルソナが「役」を意味していた時代の名残がそのまま残っている言い方です。
persona non grata という言い方
persona grata は後期ラテン語で、文字どおりには「受け入れられる人物」です。外交の場で、相手国が受け入れる代表者を指す言葉として使われてきました。
これを否定した形が persona non grata です。受け入れられない人物という意味で、外交官に国外退去を通告するときの正式な言い方になっています。ニュースで見かけるのはほとんどこの形です。
今では外交以外でも使われます。ある場で歓迎されない人を指す言い回しとして、日常の英語にも降りてきました。ラテン語の形のまま使うので、語順を英語風に入れ替えたりはしません。
ペルソナのよくある間違い
一つ目は、ターゲットと同じ意味で使うことです。ターゲットは層、ペルソナは一人の像です。層を書いてペルソナと呼んでしまうと、そもそも絞り込みができていないことになります。
二つ目は、発音を平らに読むことです。日本語の「ペルソナ」は四拍ですが、英語は三音節で、真ん中の so だけを強く読みます。per を高く読むと通じにくくなります。
三つ目は、英語で顧客像の意味のつもりで persona とだけ言うことです。英語圏ではまず「外向けの人格」に取られます。user persona、buyer persona と言い添えれば誤解が起きません。
ペルソナについてよくある質問
和製英語ではありません。英語の persona をそのまま取り入れた語です。ただしマーケティングで使う「顧客像」という意味は日本で強く定着したもので、英語で persona とだけ言うと「外向けの人格」に取られます。
ターゲットは狙う相手の層を幅で示したもの、ペルソナはその中の一人を具体的に描いたものです。層と個人という関係にあります。英語の target がもともと射撃の的を指す語であることを思い出すと、区別しやすくなります。
personae と personas の二つがあります。どちらも英英辞典に載っている正規の形です。日常の文章では personas がよく使われ、personae はかたい文章や dramatis personae のような決まった言い方に残っています。
同じです。どちらもラテン語の persona に由来します。もとの意味は、ローマ劇で俳優がかぶった仮面でした。person は古フランス語を経て1200年ごろに英語へ入っています。
ペルソナのまとめ
ペルソナとは、外に向けて見せている人格のことです。ラテン語の persona(仮面)に由来し、ローマ劇で俳優がかぶった作り物の顔がもとの意味でした。person も同じ語から出ています。
「社会的な人格」という今の意味で記録されるのは1917年からで、ユング心理学の用語として広まりました。発音は per-SO-na と真ん中を強く読み、複数形は personae と personas の二つがあります。マーケティングの「顧客像」は日本で強く定着した使い方なので、英語では user persona のように言い添えると誤解がありません。
ペルソナの出典
persona の定義・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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