ダイバーシティは、性別や年齢、国籍、経歴などが異なる人が同じ場に集まっている状態を指す言葉です。日本語では「多様性」と訳されます。
この記事では、ダイバーシティの意味をラテン語の語源からたどり、インクルージョンとの違い、この語がかつて持っていた否定的な意味、英語 diversity の発音と使い方までを整理します。語の歴史を知ると、なぜ現在の使われ方に落ち着いたのかが見えてきます。
ダイバーシティとは何か(結論)
ダイバーシティとは、互いに異なるものが同じ場に存在している状態のことです。人について使えば、属性や背景の異なる人が集まっていることを指します。
辞書の語義は二つに分かれます。ひとつは「多くの種類のものが含まれていること」。もうひとつは「異なる人々が含まれていること」です。前者は生物の種の多様さにも使われ、後者は職場や学校の話で使われます。
重要なのは、ダイバーシティは状態を表す語であって、行為や目標そのものではないという点です。多様な人がいる状態を指すだけで、その人たちが力を発揮できているかどうかは、別の語で表されます。
ダイバーシティの語源は「別々の方を向く」
diversity は14世紀半ばの英語に diversite として現れました。古フランス語の diversete を経て、ラテン語の diversitatem にさかのぼります。
もとになった diversus は、動詞 divertere の過去分詞です。di-(離れて)と vertere(向きを変える)が合わさった語で、直訳すると「別々の方向へ向けられた」となります。
この vertere は英語の中にあちこち残っています。convert(向きを変えて改める)、reverse(逆に向ける)、divert(そらす)、advertise(注意を向けさせる)。どれも「向く」という動きが芯にあります。ダイバーシティも、みんなが別々の方を向いている絵から生まれた語です。
ダイバーシティにあった否定的な意味
現在のダイバーシティは肯定的に語られますが、14世紀の英語には正反対の意味が記録されています。「ひねくれていること」「邪悪さ」という語義です。
もとになった古フランス語の diversete にも「悪意、よこしまさ」という意味がありました。同じ方を向いていないこと、つまり周囲と違う方を向いていることが、当時は逸脱として捉えられていたためです。
この否定的な語義は17世紀に使われなくなりました。以後は「さまざまであること」という中立の意味だけが残り、20世紀後半に現在の肯定的な使い方が広がります。同じ語が正反対の評価をたどった、めずらしい例です。
ダイバーシティとインクルージョンの違い
この二語はよく並べて使われますが、指しているものが違います。分けて整理します。
| 語 | 指しているもの | 日本語 |
|---|---|---|
| diversity | 異なる人がいる状態 | 多様性 |
| inclusion | その人が力を発揮できる状態 | 包摂、包括 |
| equity | 条件の差を埋めた公正さ | 公平性 |
| belonging | ここにいてよいと感じられること | 帰属感 |
よく引かれるたとえがあります。ダイバーシティはパーティーに招かれること、インクルージョンは踊りに誘われること。集まっているだけでは足りない、という指摘です。この二語を並べて使う理由がここにあります。
ダイバーシティの発音とアクセント
diversity の発音は、イギリス英語で /daɪˈvɜː.sə.ti/、アメリカ英語で /dɪˈvɝː.sə.t̬i/ です。強く読むのは二音節目の ver の部分です。
先頭の音が英米で分かれます。イギリス英語は「ダイ」、アメリカ英語は「ディ」に近い音です。どちらも通じますが、聞くときには両方の形があると知っておく必要があります。
日本語の「ダイバーシティ」は六拍で読まれますが、英語は四音節です。di-VER-si-ty と割って、二つめだけを強く読みます。最後の -ty は弱く軽く添える程度で構いません。
ダイバーシティを使った英語の例文
文化について言う例です。The city is known for its cultural diversity.(その街は文化の多様さで知られている)。cultural diversity は定番の組み合わせです。
意見について言う例です。There is a wide diversity of opinion on this issue.(この問題については意見が大きく分かれている)。a wide diversity of ~ で「幅広くさまざまな~」となります。
生物について言う例です。Climate change threatens biological diversity.(気候変動は生物の多様性を脅かしている)。この分野では biodiversity という一語にまとめた形もよく使われます。
ダイバーシティと組み合わせて使う語
diversity は前に分野の語を置いて、何についての多様さかを示すのが定型です。よく使われる組み合わせを並べます。
| 組み合わせ | 意味 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| cultural diversity | 文化の多様さ | 社会、教育 |
| ethnic diversity | 民族の多様さ | 人口統計 |
| genetic diversity | 遺伝の多様さ | 生物学 |
| diversity of opinion | 意見の幅 | 議論、報道 |
of を使う形と、前に形容詞を置く形の二通りがあります。分野を表す形容詞があるときは前に置き(cultural diversity)、無いときは of でつなぐ(diversity of opinion)と考えると整理できます。
ダイバーシティの動詞形と形容詞形
同じ語族に diverse(形容詞)、diversify(動詞)があります。名詞だけでなく、この三つをまとめて覚えると使い分けが楽になります。
diverse は「さまざまな」という意味の形容詞です。a diverse team(多様な顔ぶれのチーム)のように使います。発音は /daɪˈvɜːs/ で、こちらも二音節目が山になります。
diversify は「多様にする」という動詞で、経営の場面でよく出ます。The company diversified into new markets.(その会社は新しい市場へ手を広げた)。事業の幅を広げることを指し、日本語では「多角化する」と訳されます。
ダイバーシティが経営用語になった流れ
ダイバーシティが企業の話として語られるようになったのは、比較的最近のことです。もともとは社会や生物について使われていた語でした。
きっかけは、人口構成が変わって働き手の顔ぶれが変わったことにあります。同じ背景の人だけで組織を作ることが現実的でなくなり、違いをどう扱うかが経営の課題になりました。
その流れで、多様さは「対応すべき事情」から「活かすべき資源」へと位置づけが変わります。異なる視点が集まるほど見落としが減る、という考え方です。日本語のダイバーシティが職場の文脈に偏っているのは、この経営用語としての入り方をしたためです。
ダイバーシティと生物多様性の関係
同じ diversity という語が、生物の分野でも中心的に使われています。人について使うときと、語の中身は変わりません。
biodiversity は biological diversity を縮めた語です。ある地域にどれだけ多くの種類の生き物がいるかを表し、環境の健全さを測る指標として使われます。genetic diversity と言えば、同じ種の中の遺伝的な幅を指します。
生物学で多様さが重視される理由は明快です。種類が偏っていると、環境が変わったときに全体が一度に倒れます。幅があれば、どれかが生き残る。組織について語られる理屈と、構造がそのまま重なります。
ダイバーシティのよくある間違い
一つ目は、インクルージョンと同じ意味で使うことです。ダイバーシティは人がいる状態、インクルージョンはその人が力を発揮できる状態を指します。並べて使われるのは、片方だけでは足りないからです。
二つ目は、形容詞と名詞を混ぜることです。「ダイバーシティな職場」という言い方は、英語では a diverse workplace となります。名詞のまま形容詞のように使うと、英語に直したときに形が崩れます。
三つ目は、発音です。イギリス英語の「ダイ」だけを覚えていると、アメリカ英語の「ディ」で始まる形が聞き取れません。どちらもあると知っておくだけで、聞き取りの負担が減ります。
ダイバーシティについてよくある質問
語義としては同じで、多様性が diversity の訳語です。ただし日本語ではカタカナのほうが職場や経営の文脈に限定され、多様性のほうが生物や意見にも幅広く使われる傾向があります。
和製英語ではありません。英語の diversity をそのまま取り入れた語です。ただし英語では形容詞 diverse を使う場面が多く、名詞のまま使う日本語とは形が異なります。
本当です。14世紀後半の英語には「ひねくれていること、邪悪さ」という語義が記録されており、17世紀に使われなくなりました。周囲と違う方を向くことが逸脱と見なされていたためです。
D&I は diversity and inclusion、DEI は diversity, equity and inclusion の略です。多様性だけを掲げても不十分だという考えから、公平性と包摂を並べる形が広がりました。
ダイバーシティのまとめ
ダイバーシティとは、異なるものが同じ場に存在している状態のことです。ラテン語の「別々の方を向く」に由来し、14世紀の英語では否定的な意味も持っていました。
現在は肯定的な語として定着し、インクルージョンや公平性と並べて使われます。状態を指す語であって、力を発揮できているかは別の語が担う。この線引きを押さえておくと、英語でも日本語でも正確に使えます。
ダイバーシティの出典
diversity の定義・語源・発音は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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