メンターとは、経験の浅い人に対して、ある程度の期間にわたって助言と手助けを続ける、経験のある人のことです。英語の mentor をそのままカタカナにした語で、もとはホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に出てくる登場人物の名前でした。
この記事では、メンターの意味を英英辞典の語義からたどり、1750年に人名から普通名詞になった語源、coach や mentee との線引き、辞書が示す発音と数え方、会社の中での使われ方、そして動詞の mentor までを整理します。日本語のメンターは「相談相手」くらいの広さで使われますが、英語の mentor には辞書がはっきり書いている条件が三つあるので、そこをそろえておくと英語で書くときに迷わなくなります。
メンターとは何か(結論)
メンターとは、自分より経験の浅い人に、助言と手助けを、ある程度の期間にわたって続ける人のことです。英語の辞書はこの語に「経験差」「助言と手助け」「期間の長さ」という三つの条件を必ず添えています。
Cambridge Dictionary は名詞の mentor を、年下の人あるいは経験の浅い人に、ある期間にわたって手助けと助言を与える人、と定義しています。添えられているのは「especially at work or school」という限定で、つまり職場と学校が主な舞台だということです。
Oxford Learner’s Dictionaries も、経験の浅い人に対して、ある期間にわたって助言し手助けする経験豊富な人、と定義しています。例文は、彼女は多くの若い俳優にとって友人でありメンターだった、という文と、かつてのコーチはキャリアを通じて彼のメンターであり続けた、という文です。
同じ Cambridge Dictionary のアメリカ英語の項では、experienced に trusted が足されています。経験があり、かつ信頼されている人が、別の人に助言と手助けを与える、という言い方です。英語の mentor には「信頼されている」という含みまで入っている、ということになります。
メンターの語源はホメロスの叙事詩に出てくる人名
mentor はもともと人の名前でした。Oxford Learner’s Dictionaries は語源欄で、18世紀半ばに、フランス語とラテン語を経由してギリシャ語の Mentōr から入った語だと記しています。Mentōr は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に出てくる、若いテレマコスの助言者の名前です。
Online Etymology Dictionary はもう少し細かく、年が入っています。普通名詞としての mentor は1750年からで、当時の語義は「賢明な助言者、同時に思慮深い相談役でもある親しい友人」でした。とくに若い人や経験の浅い人に対して、という限定が付いています。
同辞典によれば、叙事詩の中の Mentor はオデュッセウスの友人であり、テレマコスの助言者でした。ただし括弧で、実際には女神アテナが姿を変えていることが多い、と補足されています。つまり原典では、助言していたのは人間の Mentor ではなく変身した神だった場面がかなりある、ということです。
名前そのものの意味もたどられています。形のうえでは mentos(意図、目的、気力、情熱)から作られた行為者名詞なので、名前の元の意味はおそらく「助言する者」だろう、と同辞典は書いています。さらにさかのぼると印欧祖語の *mon-eyo- で、これは「考える」を意味する語根 *men- の使役形です。
メンターと coach の違い
日本語では「メンター」と「コーチ」が近い意味で並びますが、英英辞典を見ると定義の重心が別の場所にあります。mentor は人そのものを長期で支える語、coach は特定の技能を上達させる語です。
Cambridge Dictionary は coach を、スポーツ・技能・学校の科目において、人が上達するように教えることを仕事にしている人、と定義しています。挙がっている例は、テニスのコーチ、数学のコーチです。レベルは B1 で、mentor よりやさしい語として扱われています。
| 語 | 辞書の定義(要点) | 辞書が添える限定 |
|---|---|---|
| mentor | 経験の浅い人に助言と手助けを与える経験のある人 | ある期間にわたって/職場・学校で |
| coach | スポーツ・技能・科目で人が上達するように教える人 | 対象がスポーツ・技能・科目に限られる |
Oxford Learner’s Dictionaries の coach は、スポーツにおいて人やチームを訓練する人、という語義を最初に置いています。バスケットボールのコーチ、フットボールのコーチ、といった例が並びます。mentor の定義には出てこない「train(訓練する)」が中心にあるのが特徴です。
語源もまったく別系統です。Online Etymology Dictionary によれば coach は1550年代に「四輪の大型幌馬車」の意味で現れました。フランス語の coche、ドイツ語の kotsche を経て、ハンガリー語の kocsi にさかのぼります。これは最初にその馬車が作られた Kocs という村の名前です。
「指導者」の意味が出たのは1830年ごろで、同辞典はこれをオックスフォード大学の学生の隠語だったと記しています。試験を通過するまで学生を「運んでいく」私的な家庭教師、という比喩です。スポーツで「競技のために選手を鍛える人」を指すようになったのは1861年からです。馬車がそのまま人の成長を運ぶ比喩になった、という筋道が見えます。
メンターに対して支えられる側は mentee
メンターがいれば、支えられる側にも名前があります。英語では mentee で、Cambridge Dictionary は mentor に助けられる人、とそのまま定義しています。発音は /menˈtiː/ で、mentor と違って後ろを強く読みます。
Oxford Learner’s Dictionaries の mentee は、より経験のある人から、ある期間にわたって助言され手助けされる人、と定義され、とくに会社や大学の正式な mentoring の仕組みの中で、という限定が付いています。レベルは C2 で、mentor の C1 より高く設定されています。
| 語 | 立場 | 発音(Cambridge) | CEFR(Oxford) |
|---|---|---|---|
| mentor | 助言し手助けする側 | /ˈmen.tɔːr/ | C1 |
| mentee | 助言され手助けされる側 | /menˈtiː/ | C2 |
Oxford Learner’s Dictionaries は例文に、the mentor/mentee relationship(メンターとメンティーの関係)、あなたのメンティーの自信を育てることが目的です、といった形を挙げています。二つの語が対で使われることが前提になっている書き方です。
もう一つ、Cambridge Dictionary は mentor の項の末尾に「Compare protégé」と書いています。protégé は「庇護を受けている人」という別系統の語で、mentee が制度の中の役割を指すのに対し、こちらは個人的な引き立ての関係に寄った語です。どちらを選ぶかで、関係が制度的なのか個人的なのかが変わります。
メンターの発音は /ˈmen.tɔːr/ で前を強く読む
mentor は第1音節の men を強く読みます。カタカナの「メンター」を平らに読むと弱く聞こえるので、頭に体重を乗せるのがこつです。
| 辞書 | イギリス英語 | アメリカ英語 |
|---|---|---|
| Cambridge Dictionary | /ˈmen.tɔː r / | /ˈmen.tɔːr/ |
| Cambridge(アメリカ英語の項) | ― | /ˈmen·tɔr , -tər/ |
| Cambridge(ビジネス英語の項) | /ˈmentɔː r / | /ˈmentər/ |
| Oxford Learner’s Dictionaries | /ˈmentɔː(r)/ | /ˈmentɔːr/ |
注目したいのは第2音節です。アメリカ英語の項は /ˈmen·tɔr , -tər/ と二つ並べています。つまり後半を /tɔr/ と読む形と、あいまい母音の /tər/ に落とす形の両方があるということです。ビジネス英語の項のアメリカ発音は /ˈmentər/ で、こちらは弱いほうだけを載せています。
派生語の mentoring も辞書に発音が載っています。Cambridge Dictionary のアメリカ英語の項は mentoring を [U] の名詞として扱い、発音を /ˈmen·tər·ɪŋ/ としています。ここでも強いのは先頭の men で、真ん中は弱いあいまい母音です。
メンターの英語 mentor は数えられる名詞
Cambridge Dictionary は名詞の mentor に [C] の印を付けています。可算名詞なので、a mentor、my mentor、two mentors のように、冠詞や複数形をふつうに使えます。
Oxford Learner’s Dictionaries の例文も、She was a friend and mentor to many young actors. のように不定冠詞を取る形です。ここでは mentor to somebody という前置詞の形も一緒に確認できます。誰にとってのメンターかを言うときは to を使います。
Oxford Collocations Dictionary の欄には、mentor is used after these nouns として faculty と peer が挙げられています。faculty mentor は大学の教員が務めるメンター、peer mentor は同じ立場の仲間が務めるメンターです。日本語の「先輩社員がメンターに付く」に近いのは後者です。
語のレベルも見ておきます。Oxford Learner’s Dictionaries は mentor を「Suggestions and advice(提案と助言)」のトピックに入れ、C1 としています。日常会話でひんぱんに出る語ではなく、仕事や学びの場でまとまった話をするときに出てくる語だ、という位置づけです。
なお、mentoring は不可算です。Cambridge Dictionary のアメリカ英語の項は mentoring に [U] を付け、勉強量を増やし、メンタリングを行い、集中的に復習することで学生の可能性は高まる、という例文を載せています。mentorship という形も Online Etymology Dictionary が関連語として挙げています。
ビジネスのメンターは「経験の浅い人を育てる人」
Cambridge Dictionary のビジネス英語の項は、mentor に HR と WORKPLACE という分野の札を付けています。人事と職場、つまり制度としてのメンターです。
そこでの定義は、ある仕事の経験を持ち、経験の浅い人を支えて助言し、その人が仕事の中で成長するのを助ける人、です。一般の語義にあった「年下の」が落ち、代わりに「その人が仕事の中で成長するのを助ける」という目的が入っているのが違いです。
例文は、彼は多くの若い起業家志望者にとってビジネス上のメンターの役割を果たした、という文です。business mentor という組み合わせがそのまま出てきます。
| 辞書の項 | 定義の重心 | 例文に出る形 |
|---|---|---|
| Cambridge(一般) | 年下または経験の浅い人への助言と手助け | ―(定義のみ) |
| Cambridge(アメリカ英語) | 経験があり信頼されている人 | mentoring(名詞・不可算) |
| Cambridge(ビジネス英語) | 仕事の中での成長を助ける | a business mentor |
| Oxford | 経験の浅い人への長期の助言 | a mentor programme |
Oxford Learner’s Dictionaries は、会社や大学などで新しい従業員や学生を訓練し助言する経験豊富な人、という二つめの語義を立てています。例文は、メンターと訓練生の定期的な面談が、若い技術者の初期のキャリアを導く助けになる、という文と、その会社はメンター制度を運用している、という文です。
メンターは動詞にもなる
mentor は名詞だけでなく動詞でも使えます。Cambridge Dictionary は動詞の mentor に [T]、つまり他動詞の印を付けています。目的語に人を取る形です。
一般の項の定義は、年下の人あるいは経験の浅い人を手助けし助言する、です。ビジネス英語の項の定義は、経験の浅い人を支えて助言し、その人が仕事の中で成長するのを助ける、で、名詞の定義と同じ言い回しがそのまま動詞になっています。
ビジネス英語の項の例文は、その制度は小規模事業の起業家を訓練し、メンターとして支えるために作られた、という文です。train and mentor という並びで出てくるので、訓練と助言が別の行為として区別されていることが分かります。
動詞は名詞よりずっと新しく、Online Etymology Dictionary は1888年からとしています。名詞の1750年から百年以上あとです。関連語として Mentored と mentoring が挙げられており、過去形・過去分詞は規則変化です。
メンターを使った英語の例文とよくある間違い
まず基本の型です。She was a friend and mentor to many young actors.(彼女は多くの若い俳優にとって、友人でありメンターでした)。Oxford Learner’s Dictionaries の例文で、mentor to somebody という前置詞の形がそのまま確認できます。
長く続く関係を言う型も辞書にあります。His former coach had remained his mentor throughout his career.(かつてのコーチが、彼のキャリアを通じてメンターであり続けました)。remain と throughout で、定義にあった「ある期間にわたって」が文の形で表れています。
間違いの一つ目は、一度だけ相談に乗った相手を mentor と呼んでしまうことです。Cambridge Dictionary も Oxford Learner’s Dictionaries も、定義に over a period of time を入れています。単発なら adviser のほうが近づきます。
二つ目は、技能の指導者を全部 mentor にしてしまうことです。Cambridge Dictionary の coach はスポーツ・技能・科目に対象が絞られており、そちらが合う場面は多くあります。
三つ目は発音です。強く読むのは第1音節の men で、後ろの音節は弱くなります。アメリカ英語ではあいまい母音の /tər/ になる形も辞書に載っているので、後ろを伸ばしすぎないほうが自然に聞こえます。
メンターについてよくある質問
辞書の定義の重心が違います。Cambridge Dictionary は mentor を「年下または経験の浅い人に、ある期間にわたって手助けと助言を与える人」、coach を「スポーツ・技能・学校の科目で人が上達するように教えることを仕事にしている人」と定義しています。人そのものを長く支えるのが mentor、特定の技を上げるのが coach という切り分けです。
mentee です。Cambridge Dictionary は「mentor に助けられる人」と定義し、発音を /menˈtiː/ としています。Oxford Learner’s Dictionaries は、会社や大学の正式な mentoring の仕組みの中で助言される人、としており、レベルは C2 です。Cambridge Dictionary は mentor の項から protégé も参照させています。
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に出てくる人名 Mentōr です。Oxford Learner’s Dictionaries は、18世紀半ばにフランス語とラテン語を経由してギリシャ語から入ったとしています。Online Etymology Dictionary は普通名詞としての初出を1750年とし、名前そのものは mentos(意図、目的、気力、情熱)から作られた行為者名詞で、おそらく「助言する者」の意味だろうと記しています。
使えます。Cambridge Dictionary は動詞の mentor に他動詞の印 [T] を付け、「年下の人あるいは経験の浅い人を手助けし助言する」と定義しています。Online Etymology Dictionary によれば動詞は1888年からで、名詞の1750年よりかなり新しい用法です。関連語は mentored と mentoring です。
メンターのまとめ
メンターとは、経験の浅い人に対して、ある期間にわたって助言と手助けを続ける経験のある人のことです。英語の辞書は「経験差」「助言と手助け」「期間の長さ」の三つを必ず定義に入れており、とくに三つめが日本語では抜けやすい部分です。
語源はホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物 Mentōr で、普通名詞になったのは1750年です。名前そのものは「考える」を意味する印欧祖語の語根にさかのぼり、英語の monitor と同じ family に属します。
英語の mentor は数えられる名詞で、mentor to somebody の形を取ります。動詞としても使えますが、こちらは1888年からの新しい用法です。技能を上げる相手を指すなら coach、支えられる側を指すなら mentee と、辞書が用意している別の語に振り分けると、英語で書いたときに意味がそのまま届きます。
メンターの出典
mentor の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

コメント