モラルとは、善い行いと悪い行いの基準に関わることがら、つまり道徳のことです。英語の moral をそのままカタカナにした語で、英英辞典は形容詞 moral を「法律にではなく、一人ひとりが信じている善悪・公正さ・正直さの基準に関わる」と定義しています。
この記事では、モラルの意味を英英辞典の語義からたどり、ラテン語 mos「習慣」という語源、日本語でしばしば混ざる「モラール(morale=士気)」との線引き、辞書が示す発音とアクセントの位置、そして「物語の教訓」という二つ目の語義までを整理します。moral と morale は最後に e が付くかどうかの違いしかありませんが、意味も、品詞も、アクセントの位置も別の語です。
モラルとは何か(結論)
モラルとは、法律に書いてあるかどうかではなく、一人ひとりが自分の中に持っている「これは善い」「これは悪い」の基準のことです。英語 moral はまず形容詞で、その基準に関わることがらを指します。
Cambridge Dictionary は形容詞 moral の第一の語義を「法律にではなく、それぞれの人が信じている善い行い・悪い行い、公正さ、正直さなどの基準に関わる」と定義し、レベル B2 を付けています。
この語義で辞書が挙げる例文は、「知っていることを警察に話すのは彼女のモラル上の義務だ」「モラルの判断を下すことは小説家の仕事の一部ではない」「その法案をモラルを理由に非難した唯一の政治家だった」という三つです。どれも「法律がそう命じているから」ではなく「人としてどうか」で語られる場面です。
Cambridge Dictionary は第二の語義として、レベル C1 で「ほとんどの人が正しく誠実だと考えるやり方で振る舞っている」も立てています。こちらは人そのものを形容する使い方で、「彼女はとてもモラルのある女性だ」「ああ、そんなにモラルを振りかざすのはやめてくれ」という二つの例文が並びます。
Oxford Learner’s Dictionaries は moral の第一の語義を「正しい行いと正しくない行いの原則に関わる」とし、a moral issue/a moral dilemma(モラル上の問題/板ばさみ)、traditional moral values(伝統的なモラルの価値観)、a decline in moral standards(モラル水準の低下)という組み合わせを挙げています。
同辞典は、さらに「法的な権利や義務にではなく、自分自身の正しさ・公正さの感覚に基づく」という語義も別に立てています。ここで並ぶのが moral responsibility/moral duty/moral authority(モラル上の責任/義務/権威)という語です。法的な責任と対にして使われる、というのがこの語義の要点です。
モラルの語源はラテン語 mos「習慣」
Online Etymology Dictionary によれば、moral が英語に現れたのは14世紀半ばです。そのときの意味は「正しい振る舞いに結びついた、あるいはそれを特徴とする」でした。
経路は古フランス語の moral と、ラテン語の moralis です。同辞典は moralis を「社会における人の適切な振る舞い」と説明し、文字どおりには「作法に関する」だと注記しています。
その moralis を作ったのが誰か、まで辞書は記しています。キケロです。同辞典は『運命について』第2巻1節でギリシャ語の ethikos を訳すために moralis を鋳造した、と書いています。つまりモラルという語は、ギリシャ語の「エートスに関する」をラテン語に移し替えるために、一人の書き手が作った訳語から始まっています。
その元にあるのがラテン語の mos です。属格は moris で、意味は「その人の気質」、複数形では「習わし、慣習、作法、道徳」になります。この語そのものの由来は不明だ、と同辞典は断っています。
Oxford Learner’s Dictionaries の語源欄も同じ道筋です。中英語期にラテン語 moralis から入ったこと、その元が mos(語幹 mor-)「習慣」であること、複数形 mores が「道徳」を指すことを記しています。
同辞典はもう一つ、名詞としての moral がどこから来たかも書いています。ラテン語の Moralia を訳すために最初に使われた、というのです。Moralia とは、グレゴリウス1世による『ヨブ記』のモラルの面からの注解の書名で、のちにさまざまな古典作家の著作にも当てられるようになりました。
Online Etymology Dictionary は、mos が英語の mood(気分)と印欧祖語の語根を共有している可能性にも触れています。mood は古英語 mod「心、心の持ちよう、精神、勇気、高慢、誇り、力、暴力」にさかのぼる語で、ゲルマン祖語 *mōda- から来ています。ドイツ語の Mut「勇気」、ゴート語の moþs「勇気、怒り」が同じ系統です。「その人の気質」という mos の語義と、「心の持ちよう」という mod の語義は、たしかによく似ています。
モラルのもう一つの意味は「物語の教訓」
英語の moral には、日本語のモラルにはあまり無い名詞の使い方があります。物語の「教訓」です。イソップのような寓話の最後に置かれる、あの一文のことを指します。
Cambridge Dictionary は可算名詞の moral を「物語・出来事・経験から読み取れる、どう振る舞うべきか・べきでないかについてのメッセージ」と定義しています。例文は「そしてこの物語のモラルは、正直はつねに最善の策である、ということだ」というものです。
同辞典はさらに「物語、とくに寓話その他の文学作品から学べる教訓」という語義も立てています。the moral of the story という形が、この語義の定型です。
Online Etymology Dictionary によれば、この名詞用法が現れたのは1500年ごろです。意味は「物語のモラルの面からの解き明かし、寓話や虚構が説く教え、何かが教えようとしている実践的な教訓」でした。フランス語の moral と中世ラテン語の moralia から来ています。
同辞典は、この意味ではもっと早く14世紀後半から morality のほうが使われていたこと、そして名詞 moral のそれ以前の使い方は「道徳に関する戒め」だったことも記しています。
名詞にはもう一つ、複数形で使う語義があります。Cambridge Dictionary は morals を「善い/悪い人格と振る舞いの基準」と定義し、public morals(公のモラル)/private morals(私的なモラル)という組み合わせを挙げています。日本語の「モラルが問われる」に近いのは、この複数形のほうです。
モラルと morale(モラール=士気)の違い
日本語ではモラルとモラールが混ざりがちですが、英語の moral と morale はまったく別の語です。morale は道徳ではなく「士気」、つまりどれだけ自信を持てているかの度合いを指します。
Cambridge Dictionary は morale を「ある人、または人の集団が感じている自信の量。とくに危険な状況や困難な状況にあるとき」と定義し、レベル C2 を付けています。
例文は「二つ勝てばチームのモラール(士気)は大いに上がるだろう」「最近たくさんの人が職を失ったので、モラールはかなり低い」というものです。米語の項には「警察内部のモラールの低さは続く問題だった」という例文も並びます。
| 語 | 品詞 | 辞書の定義(要点) | 辞書のレベル | 辞書の例 |
|---|---|---|---|---|
| moral | 形容詞・名詞 | 善悪の基準に関わる/物語の教訓/人格の基準 | B2〜C1 | a moral issue、the moral of the story |
| morale | 名詞 | 人や集団が感じている自信・熱意の量 | C2 | to boost morale、Staff are suffering from low morale. |
Oxford Learner’s Dictionaries は morale を「ある時点で人または集団が持っている自信や熱意などの量」と定義し、to boost/raise/improve morale(モラールを高める/上げる/改善する)という動詞の並びを挙げています。例文は「今この瞬間、選手たちのあいだのモラールは非常に高い」「職員は低いモラールに苦しんでいる」です。
Cambridge Dictionary はビジネス英語の項でも morale を立てており、「一緒に働く人または集団が感じている満足の度合い」と定義しています。例文は「高いモラールはチームワークと情報共有の助けになる」「休憩を義務づけることは従業員のモラールにとって良いはずだと彼は言った」「国じゅうの企業がモラールを高めようと力を尽くした」の三つです。
並べると、morale に付く形容詞は high と low、動詞は boost と improve だと分かります。moral に付くのは traditional や basic で、high や low は付きません。付く語を見れば、どちらの語かはすぐ判別できます。
モラルとモラールの発音の違い
綴りは1文字違いですが、アクセントの位置が逆です。moral は前を強く、morale は後ろを強く読みます。ここを取り違えると、聞き手には別の語として届きます。
| 語 | イギリス英語 | アメリカ英語 | 強く読む場所 |
|---|---|---|---|
| moral | /ˈmɒr.əl/ | /ˈmɔːr.əl/ | 第1音節(mor) |
| morale | /məˈrɑːl/ | /məˈræl/ | 第2音節(rale) |
表はどちらも Cambridge Dictionary の表記です。moral は先頭に強勢記号が付き、morale は2番目の音節に付きます。
moral の第1音節の母音は、イギリス英語では /ɒ/、アメリカ英語では /ɔː/ です。同辞典のアメリカ英語の項には /ˈmɔr·əl/ と、もう一つ /ˈmɑr-/ という形も載っています。
morale のほうは、第1音節が /mə/ とあいまい母音にまで弱まります。カタカナの「モラール」は最初の「モ」をはっきり発音してしまいますが、英語では逆で、最初がほとんど消え、後ろの /rɑːl/ または /ræl/ に体重が乗ります。
なお、イギリス英語とアメリカ英語で母音そのものが違うのもこの語の特徴です。イギリス英語は /rɑːl/ と長い「アー」、アメリカ英語は /ræl/ と短い「ア」になります。
モラルと morale が混ざったのはフランス語の le moral と la morale
なぜ1文字違いの語が「道徳」と「士気」に分かれたのか。Online Etymology Dictionary は、その理由をフランス語との行き違いに求めています。
同辞典によれば、英語の morale が現れたのは1752年です。そのときの意味は「道徳の原則、あるいはその実践」でした。つまり最初の morale は、今の moral とほぼ同じ意味だったことになります。
出どころはフランス語の morale「道徳、善い行い」で、これは古フランス語の形容詞 moral の女性形です。
「自信、勇気、希望などの点から見た心の状態」という今の意味が記録されるのは1831年です。同辞典はこれを、フランス語の moral との取り違えから生じた、と説明しています。現代フランス語は le moral「気質」と la morale「道徳」を区別しているのに、英語に借りるときにその区別がねじれた、というわけです。
同辞典は、この「心の状態」の語義がとくに兵士や船乗り、あるいは危険な企てに携わる集団について使われたことも記しています。士気という訳語がしっくりくるのは、この出自のためです。
形容詞 moral の側にも、似た方向への広がりがあります。同辞典は、知的な面や身体的な面と区別して「人格や振る舞いに関わる、あるいはそれに影響する」という語義が1590年代から見られること、その延長に moral support(1823年)や moral victory(1888年)があることを記し、この意味では morale と比べよ、と注記しています。
モラルから生まれた英語 demoralize と、綴りがモラルに引かれた locale
morale からは demoralize という動詞が生まれています。この語の意味の変化を追うと、moral と morale の関係がもう一度なぞれます。
Online Etymology Dictionary によれば、demoralize が現れたのは1793年です。最初の意味は「道徳を腐らせる、むしばむ」でした。フランス語の démoraliser から来ており、de-「取り除く」+ morale に分解できます。
同辞典は、これがフランス革命期の造語だと言われている、とも記しています。
「モラール(士気)を下げる、勇気と自信を奪う」という今の意味が記録されるのは1842年です。もともとはとくに軍隊について使われました。くだけた用法では「全般に混乱に陥れる」の意味でも使われる、と同辞典は付け加えています。つまり demoralize もまた、道徳から士気へと重心を移した語です。
もう一つ、綴りの面で morale の影響を受けた語があります。locale です。同辞典によれば、この語は1816年に現れた local の誤った綴りで、「場所、土地、情景」の意味で使われました。
なぜ末尾に e が付いたのか。同辞典は、おそらく morale を下敷きにしたもので、強勢の位置を示すためだっただろう、と説明しています。local は前を強く読み、locale は後ろを強く読む。その差を目で見せるために、morale の綴りが借りられたということです。
モラルの英語 moral は形容詞にも名詞にもなる
日本語のモラルは名詞としてしか使いませんが、英語の moral は形容詞が本体です。名詞として使うときは、単数か複数かで意味が変わります。
形容詞の moral は、Oxford Learner’s Dictionaries が四つの語義を立てています。正しい行いと正しくない行いの原則に関わる、自分自身の正しさの感覚に基づく、ほとんどの人が受け入れ正しいとする振る舞いの基準に従っている、そして善悪の違いを理解できる、の四つです。
四つ目の語義の例文は「子どもは生まれつきモラルを備えた存在ではない」というもので、moral beings という形で使われています。
同辞典が挙げる組み合わせも押さえておく価値があります。moral obligation(モラル上の義務)、moral code(モラルの規範)、moral courage(モラル上の勇気)、moral imperative(モラル上の至上命令)、moral judgement(モラルの判断)。どれも「法的には求められていないが、人として」という含みで使われます。
同辞典はイディオムも一つ立てています。take the moral high ground です。定義は「議論において自分の側が相手側よりモラルの面で優れていると主張する、あるいは自分の側がモラルの面で優れて見えるような論じ方をする」で、レベルは C2。例文は「モラルの高みに立とうとする彼の露骨な振る舞いに腹が立った」です。日本語の「上から目線で正論を言う」に近い、やや冷ややかな響きを持つ表現です。
名詞のほうは、単数なら「物語の教訓」、複数なら「人格と振る舞いの基準」です。同じ綴りでも数が違えば意味が違う、という点だけ覚えておけば取り違えません。
モラルを使った英語の例文とよくある間違い
辞書に載っている組み合わせをそのまま借りるのが、いちばん外さないやり方です。moral obligation と the moral of the story、そして boost morale の三つを覚えておけば、日常の場面はほぼ足ります。
Cambridge Dictionary の例文にある It’s her moral obligation to tell the police what she knows.(知っていることを警察に話すのは彼女のモラル上の義務だ)は、法的義務と対にして使う典型です。
同辞典の And the moral of the story is that honesty is always the best policy.(そしてこの物語の教訓は、正直はつねに最善の策だということだ)は、話の締めくくりにそのまま使える形です。
Oxford Learner’s Dictionaries の to boost morale(モラールを高める)は、職場やチームの話をするときの定型です。逆は low morale で、Staff are suffering from low morale.(職員は低いモラールに苦しんでいる)という例文が載っています。
間違いの一つ目は、道徳の話をするつもりで morale と書いてしまうことです。綴りの末尾に e を足すと、意味は士気に変わります。「モラルの低下」を morale の低下と書くと、辞書の語義のうえでは「やる気が落ちた」という話になってしまいます。
二つ目は発音です。moral は第1音節、morale は第2音節に強勢があります。三つ目は名詞の数で、教訓の意味なら単数、人格の基準の意味なら複数の morals を使います。この三点を押さえれば、二つの語が入れ替わることはありません。
モラルについてよくある質問
別の語です。Cambridge Dictionary は形容詞 moral を「法律にではなく、それぞれの人が信じている善悪・公正さ・正直さの基準に関わる」(B2)と定義し、名詞 morale を「ある人または集団が感じている自信の量。とくに危険な状況や困難な状況にあるとき」(C2)と定義しています。前者は道徳、後者は士気です。発音も moral が /ˈmɒr.əl/ で第1音節を強く、morale が /məˈrɑːl/ で第2音節を強く読みます。
ラテン語の moralis です。Online Etymology Dictionary によれば、キケロが『運命について』第2巻1節でギリシャ語 ethikos を訳すために作った語で、文字どおりには「作法に関する」を意味しました。その元はラテン語 mos(属格 moris)「その人の気質」で、複数形の mores は「習わし、慣習、作法、道徳」を指します。mos そのものの由来は不明だと同辞典は断っています。英語に入ったのは14世紀半ばです。
フランス語との取り違えからです。Online Etymology Dictionary によれば、英語の morale は1752年に「道徳の原則、あるいはその実践」の意味で現れました。「自信、勇気、希望などの点から見た心の状態」という意味が記録されるのは1831年で、同辞典はこれをフランス語 moral との混同によるものと説明しています。現代フランス語は le moral「気質」と la morale「道徳」を区別しています。
あります。Cambridge Dictionary は可算名詞の moral を「物語・出来事・経験から読み取れる、どう振る舞うべきか・べきでないかについてのメッセージ」と定義し、「そしてこの物語のモラルは、正直はつねに最善の策である、ということだ」という例文を挙げています。Online Etymology Dictionary によれば、この名詞用法は1500年ごろに現れ、フランス語 moral と中世ラテン語 moralia から来ています。
モラルのまとめ
モラルとは、法律ではなく一人ひとりが持っている善悪の基準に関わることがらです。英語の moral は形容詞が本体で、名詞では単数なら「物語の教訓」、複数なら「人格と振る舞いの基準」を指します。
語源はラテン語 moralis で、キケロがギリシャ語 ethikos の訳語として作りました。その元は mos「その人の気質、習わし」です。英語に入ったのは14世紀半ばでした。
いちばん気をつけたいのが morale との取り違えです。こちらは「自信や熱意の量」、つまり士気を指す別の語で、1831年にフランス語との混同から今の意味を得ました。綴りの末尾の e、アクセントの位置、付く形容詞が high と low であること。この三つを手がかりにすれば、二つの語は混ざりません。
モラルの出典
moral と morale の定義・語法・発音・語源は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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