アイデンティティは、自分が自分であることを支えている芯のことです。「自分は何者か」という感覚と、「あの人はあの人だ」と他人から見分けられる特徴の、両方を指します。
この記事では、アイデンティティの意味をラテン語の語源からたどり、自己同一性という訳語との関係、英語の identity が持つ「本人確認」という日常的な意味、発音までを整理します。日本語で使うときに抜け落ちがちな用法もあわせて見ていきます。
アイデンティティとは何か(結論)
アイデンティティとは、その人がその人であることを成り立たせている性質のことです。自分の内側から見た「自分らしさ」と、外側から見た「その人だと分かる情報」の両方が含まれます。
英語の identity には大きく三つの面があります。ひとつは氏名や生年月日などの本人を特定する情報。ふたつめは、ある種類の人や組織であるという感覚。みっつめは、二つのものが同じであるという性質そのものです。
日本語で「アイデンティティ」と言うときは、たいてい二つめの意味だけを使っています。英語ではむしろ一つめ、つまり本人確認の意味で使われる場面のほうが日常的に多い、という差があります。
アイデンティティの語源は「同じ」
identity は1600年ごろの英語に現れた語で、もとの意味は「同じであること」でした。ラテン語の idem(同じ)から中世ラテン語の identitatem を経て、フランス語の identité として入ってきています。
idem は英語にもそのまま残っていて、参考文献で同じ資料を繰り返すときの記号として使われます。数学の恒等式を identity と呼ぶのも、左辺と右辺がつねに同じだからです。
つまり語の芯は「同一性」であって、「個性」ではありません。ここが重要です。昨日の自分と今日の自分が同じ人物である、という連続性こそが、この語の出発点でした。
アイデンティティの古い綴り idemptitie
1560年代の英語には idemptitie という綴りが記録されています。ラテン語の idem が、まだ形をはっきり残していた時代の姿です。
この綴りには途中に p が入っています。ラテン語には無い音ですが、当時の英語では発音しやすさから挿入されることがありました。その後 identity へと整えられ、現在の形に落ち着いています。
綴りの変化をたどると、語の骨組みが見えてきます。ident- が「同じ」を表す部分、-ity が名詞を作る語尾です。この分け方を知っていると、identical(同一の)や identify(特定する)とのつながりも一目で分かります。
アイデンティティと自己同一性の関係
日本語の学術訳は「自己同一性」です。語源が「同じ」であることを踏まえた、正確な訳語といえます。
| 日本語 | 指しているもの | 英語 |
|---|---|---|
| アイデンティティ | 自分が自分である感覚 | identity |
| 自己同一性 | 同じ用語の学術訳 | identity |
| 個性 | 他と違う特徴 | individuality |
| 人格 | その人の性質の全体 | personality |
個性と混同されがちですが、方向が逆です。個性は「他と違う」ことを指し、アイデンティティは「自分と同じ」ことを指します。他人との比較ではなく、時間を通じた自分の一貫性が中心にあります。
アイデンティティの日常的な意味は本人確認
英語で identity が最も多く使われるのは、本人を特定する場面です。日本語の使い方とここが大きく違います。
proof of identity は身分証明、identity card は身分証明書、mistaken identity は人違いです。空港や銀行の窓口で聞く identity は、ほぼこの意味だと思って構いません。
identity theft という語も広く使われています。1995年ごろから記録されている比較的新しい語で、他人の氏名やカード番号を盗んで本人になりすます犯罪のことです。日本語では「なりすまし」と訳されます。
アイデンティティの発音とアクセント
identity の発音は、イギリス英語で /aɪˈden.tə.ti/、アメリカ英語で /aɪˈden.t̬ə.t̬i/ です。強く読むのは二音節目の den で、先頭の ai は「アイ」とはっきり読みます。
日本語の「アイデンティティ」は六拍で平らに読まれますが、英語は四音節で、二つめだけが山になります。ai-DEN-ti-ty というリズムです。
アメリカ英語では、母音にはさまれた t が軽く弾く音になります。identity の後半の二つの t がそれにあたり、「アイデネリ」に近い響きになります。聞き取れないと感じるのは、この弾く音が原因であることが多い部分です。
アイデンティティを使った英語の例文
人違いを言う例です。It was a case of mistaken identity.(それは人違いでした)。犯罪報道などでよく出る決まり文句です。
自分らしさを失う例です。She felt a loss of identity after leaving her job.(仕事を辞めたあと、彼女は自分を見失った感覚を覚えた)。loss of identity で「自分が分からなくなること」を表します。
身元を明かさない例です。The witness was given a new identity.(その証人には新しい身元が与えられた)。証人保護の文脈で使われる言い方です。
アイデンティティを含む複合語
identity は他の語と組み合わさって、社会を語る用語をいくつも作っています。記録されている年とあわせて見ると、その語が広まった時期が分かります。
| 語 | 意味 | 記録年 |
|---|---|---|
| identity crisis | 自分が分からなくなる状態 | 1954年 |
| identity politics | 属性を軸にした政治運動 | 1985年 |
| identity theft | なりすまし犯罪 | 1995年 |
| corporate identity | 企業の統一した見せ方 | 広告・経営用語 |
identity crisis は1954年に記録されています。日本語でも「アイデンティティの危機」としてそのまま使われており、青年期に自分の立ち位置が分からなくなる状態を指す用語として広まりました。
アイデンティティの語族と派生語
ident- という部品を共有する語は、意味のつながりがはっきりしています。並べて見ると覚えやすくなります。
| 語 | 品詞 | 意味 |
|---|---|---|
| identity | 名詞 | 同一性、身元 |
| identical | 形容詞 | まったく同じ |
| identify | 動詞 | 特定する、見分ける |
| identification | 名詞 | 特定すること、身分証 |
identical twins は一卵性双生児のことです。遺伝情報が同じであることから、この語が使われます。二卵性は fraternal twins と呼ばれ、こちらは「兄弟の」という別の語が入ります。
identify with という形も覚えておくと便利です。I can identify with her situation.(彼女の状況には共感できる)のように、自分と重ねて感じることを表します。単に特定するだけでなく、自分と同じだと感じる、という語源どおりの使い方です。
アイデンティティが揺らぐと言われる場面
日本語でこの語が使われるのは、多くの場合それが失われかけているときです。安定しているときには話題にならない、という特徴があります。
転職、引っ越し、進学、退職。これまで自分を説明していた肩書きが変わると、自分が何者か言いにくくなります。英語でも loss of identity や identity crisis という形で、この状態を表す言い方が定着しています。
語源に戻ると、この現象の理由が見えます。identity の芯は「時間を通じて同じであること」です。環境が変わって過去の自分とのつながりが見えにくくなると、同一性の感覚が薄れます。揺らぐのは性格ではなく、連続性のほうだということです。
アイデンティティのよくある間違い
一つ目は、個性の意味だけで使うことです。英語では本人確認の意味が日常的に強いため、Show me your identity. と言うと身分証を求めていると受け取られます。個性を言いたいなら individuality です。
二つ目は、動詞と混ぜることです。identify は「特定する」という動詞で、名詞は identity、形容詞は identical です。三つの形を区別しておく必要があります。
三つ目は、綴りです。真ん中は dent で、identity と歯を意味する dental が同じ並びになります。iden-ti-ty と三つに割って覚えると間違えにくくなります。
アイデンティティについてよくある質問
個性は他人と違う特徴のこと、アイデンティティは時間を通じて自分が同じであるという感覚のことです。比較の相手が他人か、過去の自分か、という点で向きが逆になります。
和製英語ではありません。英語の identity をそのまま取り入れた語です。ただし日本語では自分らしさの意味に偏っており、英語で日常的に多い本人確認の意味はあまり使われません。
語源が「同じであること」だからです。恒等式は左辺と右辺がつねに等しい式なので、この語がそのまま当てはまります。人の自己同一性と同じ語であることが、語の芯を示しています。
identity は「その人であること」そのもの、identification は「その人だと特定する行為や書類」です。身分証は identification(略して ID)と呼ばれます。
アイデンティティのまとめ
アイデンティティとは、自分が自分であることを支える性質のことです。ラテン語の idem(同じ)に由来し、1600年ごろの英語では「同じであること」を意味していました。
英語では本人確認の意味で使われる場面が多く、日本語の用法とずれがあります。個性ではなく同一性が芯にある語だと押さえておけば、identical や identify とのつながりも含めて正しく使えます。
アイデンティティの出典
identity の定義・語源・発音は以下の英英辞典と語源辞典で確認しました。

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