「バイリンガル」という言葉は日常でよく使われますが、どこからがバイリンガルなのかを聞かれると答えに詰まります。両方とも母語なみに話せる人だけを指すのか、日常会話ができれば当てはまるのか。人によって基準がばらついている言葉です。
この記事では、まず語の成り立ちから意味を確定させ、言語学で使われている分け方、似た言葉との違い、そして日本語での使われ方のずれまでを整理します。
バイリンガルとは何か(結論)
バイリンガルとは、二つの言語を使える人、または二つの言語で書かれた状態を指す語です。英語の bilingual をそのままカタカナにしたもので、bi(二つ)と lingual(言語の)を合わせた形になっています。
重要なのは、英英辞典の定義に「母語なみに」という条件が必ずしも入っていないことです。二つの言語を使えることが定義の中心で、その水準までは語そのものが決めていません。日本語で使われるときだけ「どちらも完璧に」という重い意味が付きやすくなっています。
人だけでなく、物にも使います。bilingual dictionary は二言語辞典、bilingual sign は二か国語で書かれた標識です。この用法では水準の話は関係なく、単に二つの言語が使われているという意味だけになります。
バイリンガルの語源
bilingual はラテン語に由来します。bi- は「二」を表す接頭辞、lingua は「舌・言語」を表す語です。舌が二つある、というのがもとのイメージで、言語を舌で表す発想は日本語の「舌が回る」にも通じます。
同じ lingua から来た語はほかにもあります。language(言語)、linguistics(言語学)、linguine(細長い麺)まで、すべて同じ根を持ちます。linguine が同じ仲間なのは、麺の形が舌に似ているためです。
| 接頭辞 | 意味 | 語 | 指すもの |
|---|---|---|---|
| mono- | 一 | monolingual | 一言語だけを使う |
| bi- | 二 | bilingual | 二言語を使う |
| tri- | 三 | trilingual | 三言語を使う |
| multi- | 多 | multilingual | 複数の言語を使う |
この接頭辞は言語以外にも同じ規則で働きます。bicycle は二輪、tricycle は三輪、monorail は一本のレール。数を表す部分だけを覚えておけば、初めて見る語でも見当がつきます。
バイリンガルとマルチリンガルの違い
バイリンガルは二言語、トリリンガルは三言語、マルチリンガルは三つ以上の複数言語を指します。境目は言語の数だけで、上達の度合いは関係ありません。
実際の使われ方では、マルチリンガルがいちばん幅広く使われます。三言語でも四言語でもマルチリンガルと呼べるため、正確な数を言う必要がないときに便利だからです。トリリンガルは、あえて三つだと強調したいときに選ばれます。
なお、社会や国について使うときは意味が変わります。a multilingual country は複数の言語が使われている国のことで、住民一人ひとりが複数話すという意味ではありません。人について言うのか、地域について言うのかで指すものが変わる点に注意が要ります。
バイリンガルの二つの型
言語学では、二つの言語をいつ身につけたかで型を分けます。生まれたときから同時に二言語に触れて育つ型と、一つの言語が固まってからもう一つを足す型です。前者を同時型、後者を後発型と呼びます。
同時型は、家庭で親がそれぞれ別の言語を話す場合や、家庭の言語と地域の言語が異なる場合に起こります。二つの言語がどちらも第一言語として育つのが特徴です。
後発型は、学校や仕事、移住をきっかけに二つ目の言語を身につける形です。学習として身につけた言語には、第一言語とは別の道筋があります。どちらの型でも二言語を使えることに変わりはなく、優劣の話ではありません。
バイリンガルの水準の考え方
二つの言語が同じくらい使える状態を、均衡型バイリンガルと呼びます。ただし、これは理念に近い状態で、実際にはどちらかが強くなるのがふつうです。
領域によって強い言語が入れ替わることもよくあります。家庭の話題は一方の言語のほうが言いやすく、仕事の話題はもう一方のほうが言いやすい。語彙が使われた場面ごとに積み上がるため、この偏りは自然に起こります。
| 呼び方 | 状態 | よくある例 |
|---|---|---|
| 均衡型 | 二言語がほぼ同じ水準 | どちらの場面でも困らない |
| 優勢型 | 片方が強い | 読み書きは一方だけ得意 |
| 受容型 | 聞いて分かるが話さない | 親の言語を理解だけできる |
受容型は、家庭で親の言語を聞いて育ったものの、返事は地域の言語でしていた人によく見られる形です。理解はできるので、話す練習を始めると立ち上がりが早いという特徴があります。
バイリンガルの発音とアクセント
英語の bilingual は、二つ目の音節を強く読みます。カタカナの「バイリンガル」は平らに読まれがちですが、英語では「リ」の部分に山が来ます。
| 語 | 発音記号(米) | 強く読む位置 |
|---|---|---|
| bilingual | /baɪˈlɪŋɡwəl/ | 二音節目(lin) |
| trilingual | /traɪˈlɪŋɡwəl/ | 二音節目(lin) |
| multilingual | /ˌmʌltiˈlɪŋɡwəl/ | 三音節目(lin) |
三語とも lin の部分に強勢が来るので、まとめて覚えられます。最後の -gual は「グアル」ではなく、軽く「グワル」と流す音です。カタカナのように一音ずつ均等に区切らず、強い部分だけをはっきり出すと通じやすくなります。
バイリンガルと「ペラペラ」の違い
日本語では、バイリンガルと「ペラペラ」がほぼ同じ意味で使われることがあります。しかし二つは別の話です。バイリンガルは言語の数の話、ペラペラはなめらかさの話で、測っている軸が違います。
英語で言い分けるなら、なめらかさは fluent です。She is fluent in English. は英語がなめらかだという意味で、二言語話者かどうかには触れていません。She is bilingual. は二言語を使うという事実だけを述べています。
日本語で「バイリンガル」に完璧さの響きが乗るのは、この二つが重ねて使われてきたためです。英語で話すときは、数の話と水準の話を分けて言うと誤解が減ります。
バイリンガルを使った例文
人について言う例です。She is bilingual in Japanese and English.(彼女は日本語と英語のバイリンガルだ)。in のあとに二つの言語を並べるのが決まった形で、bilingual of とは言いません。
物について言う例です。This is a bilingual dictionary.(これは二言語辞典だ)。The signs are bilingual.(標識は二か国語で書かれている)。この用法では人の能力とは無関係です。
仕事の文脈でも使われます。We are looking for a bilingual staff member.(二言語を使える職員を探しています)。求人ではこの形がよく使われ、どの二言語かは別に指定されます。
バイリンガルにまつわる誤解
一つ目は、二つの言語が同じ水準でなければバイリンガルではない、という思い込みです。英英辞典の定義は二言語を使えることが中心で、同水準であることは条件になっていません。均衡型はむしろ少数派です。
二つ目は、二言語が混ざるのは中途半端さの表れだ、という見方です。会話の途中で言語を切り替える現象はコードスイッチングと呼ばれ、二言語話者に広く見られるふるまいとして記述されています。相手や話題に合わせて選び分けている状態です。
三つ目は、幼いころに始めなければバイリンガルになれない、という考えです。同時型と後発型は道筋が違うだけで、後発型もバイリンガルと呼ばれます。呼び名の上で線が引かれているわけではありません。
バイリンガルという言葉が使われる場面
バイリンガルという語は、学術と日常で指す範囲が違います。言語学では二つの言語を日常的に使う人を広く指し、能力の高さを条件にしません。日常会話では、どちらも不自由なく話せる人という、かなり狭い意味で使われます。
求人票では「バイリンガル人材」という言い方が定着していますが、この場合に求められる水準は職種で変わります。会議で議論できることを求める職場もあれば、メールのやり取りができれば足りる職場もあります。語だけを見て水準を判断できないため、具体的な場面で確かめる必要があります。
教育の場では、二言語で教育を行う方式をバイリンガル教育と呼びます。人ではなく仕組みを指す使い方で、同じ語が対象を変えて使われている例です。
バイリンガルについてよくある質問
別の意味です。バイリンガルは二つの言語を使えることを指す語で、生まれや家庭の背景とは関係ありません。二言語の家庭で育っても一言語しか使わない人もいれば、学習して二言語を使う人もいます。
I speak two languages. または I’m bilingual in Japanese and English. と言えば伝わります。水準まで伝えたいときは、fluent や conversational といった語を足して分けて言うと正確になります。
monolingual です。一つの言語だけを使う状態を指します。日本語では「モノリンガル」とカタカナで使われることもありますが、バイリンガルほど定着していません。
別の話です。バイリンガル教育は、二つの言語を使って授業を行う教育の形を指します。人の状態を表す語と、教育の方式を表す語で、指しているものが異なります。
バイリンガルのまとめ
バイリンガルとは、二つの言語を使える人、または二言語で書かれた状態を指す語です。bi(二)と lingua(舌・言語)から成り、三言語ならトリリンガル、複数ならマルチリンガルと呼び分けます。
水準の条件は語そのものには含まれておらず、二言語が同じ強さでない状態のほうがふつうです。数の話であるバイリンガルと、なめらかさの話である fluent を分けて考えると、日本語で使うときのずれも整理できます。
出典
bilingual の定義・語源・発音は以下の英英辞典で確認しました。

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